昨年1月に亡くなったやしきたかじんさんの遺産の中から、遺言により2億円が社団法人「OSAKAあかるクラブ」に寄付され、大きな話題を集めた。遺産の半分を慈善団体に遺贈するよう記されていた場合、これを止めさせることはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
母に先立たれた資産家の父が急死。問題は遺産の半分を慈善団体に寄付すると遺言書に記されていたこと。父と慈善団体の関係が不明ですし、納得できません。その団体に遺産の半分が渡らないようにする法的な手段はないですか。実子が相手先への支払いをストップさせることはできないのでしょうか。
【回答】
遺言は遺留分の権利を侵害しない限り自由です。親が死亡した場合の子の遺留分は半分です。遺言では慈善団体への遺贈は半分ですから、残り半分は相続できます。遺留分侵害はなく、遺贈が遺産の半分というだけでは文句はいえません。
遺言の効力を争うには、遺言の無効を立証する必要があります。よく遺言書を見てください。自筆証書の遺言の場合、全文自筆で署名押印と日付の記載が必要で、これらを欠いていると無効です。
こうした瑕疵がなかったり、公証人に依頼した公正証書遺言だと、形式的な面で遺言の効力を争うことは困難で、遺言能力がなかったことや遺言者の錯誤、あるいは遺言内容の公序良俗違反などの特殊な事情が必要です。
遺言能力とは文字通り遺言する判断力ですが、遺言は15歳以上なら作成でき、遺言の内容がわかり、その効果が判断できれば足ります。生前の精神状態が正常であれば、遺言能力が欠けていたとはいえません。
次に、遺言が無効になる錯誤が遺言者にあったかですが、産院で取り違えた子への遺贈に錯誤が認められた事例があるくらいで、本人が死亡している以上、真意を確かめようもなく困難です。そして、遺言内容ですが、受遺者が本当の慈善団体だと公序良俗違反とはいえなくなります。
以前に高齢の会社経営者が、後継者がいるのにもかかわらず、顧問弁護士に全財産を遺贈した遺言の効力が争われた事件がありました。裁判所は遺言能力は認めたものの、認知症の進行で弁護士の影響を受けやすくなっており、不合理な遺言に誘導されたと認定し、弁護士の誠実義務違反があるとして、公序良俗違反を認めました。
しかし、これは特殊な事案です。慈善団体の活動などに不審な点がなければ、遺言者の遺志を大切にしてあげるべきでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年6月26日号