年金情報大量流出事件の被害は底が見えない。政府は約125万件の年金情報が流出したと発表し、そのうち「氏名」「年金番号」「生年月日」「住所」の4項目の情報が漏れた被害者(1万5302人)から順に通知を送ることにした。
そもそも、政府が発表した流出件数「125万件」という数字自体が超希望的観測である。日本年金機構の水島藤一郎・理事長は国会で「125万件で打ち止めか」と質問され、「残念ながら、さらに流出件数が拡大する懸念はある」(6月3日)と答えたが、情報流出の経緯や実態については「警察の捜査中」を理由に開示せず、その後もほとんど明らかにしていない。国民の怒りを恐れ、情報隠しに徹する姿勢である。
さらに事態を悪化させているのが年金役人たちのサボタージュだ。全国の年金事務所の窓口では、相談者の年金番号を職員がパソコンに打ち込むと、情報流出していた場合、画面に印が点滅して漏洩を知らせる仕組みだ。流出がわかると、窓口の職員が謝罪の言葉を述べる。ところが、その後の対策は何もしない。流出件数が最も多い沖縄の被害者がこう怒る。
「窓口で『あなたの情報は流出しています』と謝られました。心配だから年金番号をすぐに変えてほしいと頼むと、『いつになるかわかりません』という。これではとても安心できません」
流出被害者への通知送付作業も遅々として進まない。年金問題に詳しい経済ジャーナリスト・磯山友幸氏は、その裏に重大な問題が潜んでいる可能性があると指摘する。
「年金機構は大量の通知送付に消極的です。その理由を探ると、機構は“何十万件も通知を出せば届かないケースが続出すること”を心配しているようです。つまり、年金機構が加入者の住所を把握していなかったり、氏名や住所を間違っていたりすることがわかってしまう。それは、年金記録のミスであり、新たな『消えた年金』問題につながっていきます」
「漏れた年金」が「消えた年金」問題を再燃させる可能性があるというのだ。
この6月後半に、年金機構の役職員にボーナスが支給される。今回の情報流出に伴う減額措置はない。同機構の業務評価は厚労省の社会保障審議会が行なうが、「前年度の業績で評価されるため、今回の情報流出(5月)によるボーナス減額は勘案されなかった」(厚労省関係者)からだという。
塩崎恭久・厚労相は情報を漏らした年金機構の職員たちにはボーナスを満額支給する一方で、被害者に対しては「金銭的な補償を行なう考えは、今は持っていない」と語った(その後、厚労省の樽見英樹・年金管理審議官は「しょうがないですねと申し上げるつもりはない」と軌道修正した)。
※週刊ポスト2015年7月3日号