2012年に米国へ亡命した反体制作家・余傑氏の『中国教父 習近平』は昨年3月に香港の出版社で発売されるやベストセラーとなり、いまなお異例の売り上げを続けている。しかし中国本土での販売は禁止され、香港からの持ち込みも厳しく禁じられている。中国当局がそこまで警戒する本には、一体何が書かれているのか。
毛沢東主義に走り権力を掌握する習近平を、余傑氏はナチスドイツのヒトラーになぞらえる。
〈ナチス政権の滅亡後、多くの人が「なぜナチズムはあれほど急速に広まったのか。かくも聡明で理性的なドイツ人が、なぜヒトラーの催眠にやられて言うなりになっていたのか」と困惑したが、これこそが今の共産党政権がそう簡単に瓦解しない理由である。
習近平は政権の座について以来、急速にファシズム化している。国内は強い力でねじ伏せて安定を保ち、対外的には大胆に動き出している。今や世界の「台風の目」のようなものだ。
(中略)「ヒトラーはなぜ生まれたか」を答えることができれば、「習近平はなぜ生まれたか」についても答えることができるだろう。2人が台頭していった軌跡は、同じ線を描いている〉
一方で余傑氏は、ヒトラーと同じように習近平もまた、すでに「破滅」への道を歩み始めているという。
〈中央から地方に至るまでの共産党組織全体が、「狸寝入り状態」になっている。(中略)または「脳死状態」である。中央と地方はお互いを欺き合い、(中略)人民は党に忠誠を誓っているフリをする〉
〈習近平の話を聞いていると、もはや周囲の者たちの意見が耳に入らなくなっているのではないかと思う。中国がかつて進んだことのない暗闇へと狂ったように向かっているのだ〉
そしてその暗闇の果てにあるものをこう結ぶ。
〈火山はいつか爆発し、黄河の堤防も決壊する。習近平の運命を中国の歴史に照らして見るなら、隋の煬帝(ようだい)、明の崇禎(すうてい)、清末の愛新覚羅載ホウだろう。世界的に見るなら、ナチスのヒトラー、ルーマニアのチャウシェスク、イラクのフセイン、リビアのカダフィである〉 習近平は、ヒトラーをはじめとした独裁者たちと同じ末路を辿ると予言するのだ。政府にとってはこれ以上ない屈辱である。
※SAPIO2015年7月号