翌日に天安門事件26周年を控えた6月3日、端整な顔立ちと冷静沈着な受け答えで「習近平体制の美人スポークスマン」として知られる華春瑩(ホア・チュンイン)・報道官はこう質問されて珍しく顔色を変えた。
「中国は日本に歴史を正視しろと求めています。それでは、中国はいつになったら天安門事件の歴史を正視するのですか」
中国当局が民主化を求める学生らを武力鎮圧し、多数の死傷者を出した天安門事件への言及はいまだに中国国内ではタブー。そこに日中の歴史認識問題を絡め、習近平政権の痛いところを突いた記者は一体どんな人物なのか──。
質問したスペインEFE通信社のパロマ・アルモゲラ記者に話を聞いた。彼女はマドリードのコンプルテンセ大学でジャーナリズム論を学び、ジュネーブ、ナイロビ特派員などを経て、2012年から北京特派員。ハリウッド女優のアン・ハサウェイ似の超美人記者だ。
──なぜそうした質問をしたのか。
「中国政府は毎年、天安門事件の周年日が近づくと犠牲者の遺族団体『天安門の母たち』のスタッフを迫害します。彼らは政府に謝罪を求め、亡くなった人々の公式な数字の発表を訴えているだけです。
今年は戦後70周年で、中国当局は日本に歴史認識を改めるよう強硬に主張しているにもかかわらず、そういう中国自らが国内の歴史に蓋をして隠し続けるのはおかしいと感じて、報道官に質問すべきだと思いました」
──習近平体制下の中国をどう見ているのか。
「中国は世界第2位の経済大国となった国力を背景に、国外では拡張政策を進める一方で、国内では国民が共産党政権に反旗を翻すことを恐れ、弾圧を続けています。共産党の権力を維持したい習近平体制になってからはなおさらその傾向が強くなったと見ています」
──安倍政権下の日本をどう見ているか。
「日本は私の取材領域外ですが、安倍首相は歴史修正主義、国家主義路線に邁進し、中国や韓国とわざわざ軋轢を起こそうとしているように見えます。各国のリーダーはそう簡単に和解できる状況ではありません」
──質問後も中国にいて、身の危険などはないか。
「中国で海外特派員は政府に決められた質問をすることが暗黙のルール。私はそれを破りましたが、今のところ身の危険は感じていません」
冒頭の質問に、華報道官は気色ばんで「2つの事件の性質は完全に異なる」と反論した。2人の才媛の応酬に今後も注目だ。
※週刊ポスト2015年7月3日号