日本年金機構から約125万件の年金情報が流出したことが分かり、「消えた年金」問題が改めてクローズアップされている。塩崎恭久・厚労相は被害者に対して、「金銭的な補償を行なう考えは、今は持っていない」と発覚後に話した(後に軌道修正)。
「年金」は安倍晋三首相にとって鬼門だ。8年前の第1次内閣当時、「消えた年金」問題の発覚で政権が窮地に陥ると、安倍氏は「最後の1人までチェックして支払います」と国民に約束した。しかし、ほとんど手をつけないまま政権を放り出した。退陣翌年、マスコミとの懇談で本音をこうぶちまけたことが報じられている。
「年金ってある程度、自分で責任を持って自分で状況を把握しないといけない。何でも政府、政府でもないだろ」
反省の欠片もない八つ当たりである。年金記録が消えたのは自己責任ではなく、政府(当時の社会保険庁)の管理が杜撰なためだ。
国民にとって不幸なのは、8年前に消えた年金問題を投げ出した安倍―塩崎(当時は官房長官)コンビが、今回再び、首相と厚労相として漏れた年金対応の最高責任者になっていることだ。
案の定、安倍政権が真っ先に取り組んだのは問題の矮小化をはかる情報操作だった。菅義偉・官房長官が、「年金そのものは漏れていない。『漏れた年金』という表現は国民に無用な不安や誤解を与えかねない」とメディアに注文をつけ、新聞・テレビは「年金情報流出」「漏れた年金情報」と報じるようになった。被害が出ているのに「無用な不安」とは何たる言い草か。
消えた年金問題の際も、安倍政権は「年金記録が誰のものかわからないだけで年金が消えたわけではない」とメディアに「消えた年金」という言葉を使わないように圧力をかけ、年金が宙を漂うわけがないのに、「宙に浮いた年金」という妙なネーミングを強要して問題の深刻さを隠そうとした。同じ手法だ。
さらに塩崎厚労相は「(年金機構では情報に)パスワードをかける内規が守られていない。いってみれば統制の取れていない組織であることは私どもにとっては大変遺憾な状態」(6月5日の国会答弁)と他人事のような発言を繰り返した。
※週刊ポスト2015年7月3日号