家電量販店で初の全国都道府県出店を果たすなど一時代を築いたヤマダ電機が、苦境に立たされている。5月には46店舗を閉鎖し、大きなニュースとして取り上げられた。量販店ビジネスとヤマダ電機の今後について、大前研一氏が解説する。
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家電量販最大手のヤマダ電機は先月、地方や郊外の不採算店を中心に46店舗を閉鎖した。2011年3月期に2兆1533億円に達した売上高が2015年3月期は1兆6644億円にまで減少したからで、まだ売上高は2位のビックカメラの2倍だが、減収減益のジリ貧状態に陥っている。ただし、この現象はヤマダ電機だけの問題ではなく、販売拠点を全国展開している小売企業すべてが直面している構造変化でもある。
もともと家電販売店は、松下電器産業(現パナソニック)が全国津々に地域密着型の特約店「ナショナルショップ」を2万6000店も作って成長した「街の電器屋さん」の時代が、値段の安い量販店の登場によって1980年代に崩壊した。地域電器店でさえ家電メーカーから仕入れるよりも量販店で仕入れたほうが安いという状況になったのだ。
量販店ビジネスは、商品をたくさん売れば売るほど多くなるメーカーからの「期末報奨金」を前もって値段に反映し、ディスカウントするというものだ。しかし、もはや量販店はショールーム化している。多くの消費者は近所の量販店で商品の実物を見て説明を聞いた上で、価格比較サイト「カカクコム(価格.com)」で最安値の店を探してネットで買うのが当たり前になり、量販店ビジネスが崩壊し始めているのだ。
それだけではない。より大きな問題として、もう一つ社会的な要因がある。大半の地方や郊外ではアベノミクスで給料が上がるどころか、物価の上昇などで生活が苦しくなって将来に不安を感じる人が増え、財布の紐がますます固くなっている。だから、大都市圏以外では多くの量販店が苦戦している。この“二重の崩壊”が、全都道府県に店舗網を拡大したヤマダ電機を直撃したのである。
2015年2月期決算で、カジュアル衣料のしまむらが1988年の上場以来初の2期連続減益になったり、小売業最大手のイオンがGMS(総合スーパー)の不振から3期連続減益に沈んだりしているのも、地方や郊外の消費低迷の影響が大きい。全国展開で強さを誇ってきた会社が、軒並み苦境に陥っているのだ。
このままではヤマダ電機は地方店や郊外店の閉鎖にとどまらず、急失速する可能性もあるだろう。蘇寧電器(中国の家電量販店最大手)のラオックス買収に刺激された中国・台湾資本が虎視眈々と2匹目のドジョウを狙っているので、ヤマダ電機が抜本策を講じなければ恰好の標的となるだろう。
※週刊ポスト2015年7月3日号