球界には「捕手が育てばチームは10年安泰」という格言がある。近年の巨人の強さは、絶対的な扇の要としてチームに君臨した阿部慎之助の存在なしに語れない。しかし巨人・原辰徳監督は6月16日、阿部の一塁へのコンバートを再び宣言した。阿部の後釜はどうなるのか。捕手の変遷とともに巨人のここまでのシーズンを振り返ってみる。
開幕マスクは2年目の小林誠司だった。横浜、中日と続いた開幕からの6戦は小林2試合、相川亮二1試合というペースで起用されていたが、中日に3連敗を喫して2勝4敗になると、原監督はさっさと見切りをつけ、「捕手では99%使わない」と宣言していたはずの阿部にマスクを託す。相川が肉離れで離脱したため、新人同然の小林だけでは覚束ないという判断があったようだ。
だがその阿部も4月17日の阪神戦で太ももを痛めて戦線を離脱すると、原監督は小林と12年目の實松一成を交互に起用する。實松で負けると小林を起用。勝つと次の試合も任せるが、負ければ實松と交代というパターンが多かった。
5月に阿部と相川が復帰してくると、今度はその2人を併用。小林の出番は5月16日のヤクルト戦を最後になくなり、数日後には二軍落ちが決まった。そして阿部の2度目の離脱に伴い、相川中心の起用となって今に至る。
こう見るといかに小林が原監督に信頼されていないかがわかる。
だが、興味深いデータがある。今季の巨人の先発捕手別の勝敗だ。分析は『プロ野球なんでもランキング』(イースト・プレス刊)などの著書がある、野球データに詳しいライター・広尾晃氏に依頼した。
6月24日終了時点で、巨人一軍捕手の先発成績をみると、阿部が15勝8敗、小林が8勝8敗、相川が7勝12敗、加藤健が0勝2敗で實松が5勝6敗。マスクをかぶった際の投手の防御率をみると阿部は1.86、小林が3.03で相川が3.04、加藤は3.27、實松は4.03という数字だ。
阿部の安定感は一目瞭然だが、意外にも小林は他の捕手と比べても及第点の仕事をしているといえる。
「小林は防御率3.03で相川と差がないように見えますが、これは開幕2試合で11失点したことが原因です。以降は復調して堅実な働きを見せている。最初の2試合を除いた防御率は2.22と阿部と比べても遜色ないレベルで、チーム防御率の2.78を上回っている」(広尾氏)
勝敗は8勝8敗の五分。10年以上のキャリアを持つ他の控え捕手が負け越しているのに対し、2年目にしてこの成績ならば十分合格ではないだろうか。
※週刊ポスト2015年7月10日号