生きたまま罪人を切り刻み、その肉を食べる中国の歴史書『資治通鑑(しじつがん)』を読めば、そうした刑罰や為政者の虐殺行為が古代から繰り返されてきた中国の伝統であり、そこに通底する価値観は現代中国にも通じていることがわかる。
『資治通鑑』は大まかに言って紀元前500年から紀元1000年頃までの1500年間の中国の歴史を、北宋(960~1127年)の政治家・司馬光がまとめた歴史書。1万ページもの大著であり、いまだ日本語の完訳がないため、現代日本人には馴染みが薄い。
同書を精読し、昨年、一般向けの指南書『本当に残酷な中国史』(角川SSC新書)を上梓したリベラルアーツ研究家の麻生川静男氏が解説する。
「中国人の本質は、『資治通鑑』を抜きには語れない。同書には、全体の3割にわたり“残酷でド派手なことが大好きな中国人”の姿が描かれている。日本で昔からよく読まれた『十八史略』(正史の簡略版)ではえげつない部分がかなりカットされている」
『資治通鑑』は、戦闘行為に随伴する残虐行為から、単なる殺人狂の所業に至るまで、かなり史実に忠実に描かれた。
たとえば、籠城の際の食糧難に「食人」は当たり前だし、権力者が逆らった部下を見せしめのために殺して部隊全員に食べさせたりする「食人」の事例は数えきれない。
ライバルの戚(せき)夫人の手足を切り落とし耳や目をつぶして「人ブタ」と名付け厠に放り込んだ呂(りょ)太后の例や、長安城攻めの際に城内の人々を皆殺しにした黄巣軍の「洗城」など、残酷を極める中国人の描写は日本人には卒倒ものだ。
「『資治通鑑』を読めば、1500年の間、同じようなことが繰り返されていることがわかる。中国という社会は、日本とは比較にならないほど“慣性力”が強いため、紀元1000年以降も伝統が受け継がれている」と麻生川氏はいう。
歴代の為政者は史書を策略・奸計の指南書とした“伝統”がある。
※SAPIO2015年7月号