AV業界の市場規模は一説には映画産業の倍の4000億円超といわれ、年間3万5000本もの作品が制作され、女優も飽和状態にある。「渋谷のスクランブル交差点で石を投げればAV女優に当たる」とはあるAV監督の言葉だ。
そんな中、求められているのは「肩書き」の付加価値だという。その価値を分かっているからか、「地方局アナ」やテレビにも出る「有名女医」、さらには「元教師」などがこぞって面接に駆けつけている。新たな社会現象を追った。
AV業界に詳しいライターの尾谷幸憲氏がいう。
「“副職女優”が目立ち始めたのはここ5年ぐらいのことです。20年ほど前、AV女優は2000人もいなかった。それが今や1万人を超えたといわれ、差別化を図らないと埋もれてしまいます。しかも最近は“AVで有名になりたい”という野心を持つ子もいる。自分の武器はすべて利用するという考え方なのです」
撮影する側にとっても、AVを副業にする女性とは仕事がしやすいという。AV監督歴30年のカンパニー松尾氏が話す。
「本職がある女性は身だしなみや対応がしっかりしており、撮影に対するモチベーションが高い。自分の貴重な休みを使って撮影するわけですからね。専業女優の中には“今日は何をやらされるの?”と後ろ向きに聞く子もいますが、副業女優は“今日は何をすればいいの?”と前向きに聞いてくるので撮る側のモチベーションも上がります」
一方、魅力的な肩書きを持っていても、それを打ち出せないケースもある。AVメーカー関係者がいう。
「私が知っているだけでも現役女性自衛官のAV女優が5人ほどいます。そのうちの1人は、悪徳セールスマンに犯される人妻モノに出ていました。ですが、全員が肩書きを表に出せない。バレると自衛隊をクビになるだけでなく、新聞沙汰になり社会的な制裁も受けますから」
昨年撮影されたある現役グラビアアイドルの作品は、リリース直前に発売中止になった。彼女は本業とは別の名前を使って「グラドル」の肩書きをひっさげてAVデビューを予定していたのだが、ネットユーザーに暴かれてしまった。
本業を重視した彼女は、弁護士を立ててAVプロダクションに発売停止を求めてきたのだという。発売を強行することもできたが、揉めることを恐れたプロダクションがしぶしぶメーカー側に損害賠償して発売を取りやめた。
話題性のある肩書きがあれば必ずデビューできるというわけでもない。先のプロダクション幹部がいう。
「警察と政界関係者は絶対にダメ。AVは一歩間違えれば『わいせつ物』という指摘を受けかねないので、お上を刺激したくないんです。現役の婦警や議員という肩書きは魅力的ですが、リスクが大きすぎる」
今日も「副業志願者」が面接に訪れている。次はどんな「現役○○」がデビューするのだろうか。
※週刊ポスト2015年7月10日号