韓国では元徴用工やその遺族が、戦時中に徴用した企業の流れを汲む日本企業を相手に、賠償請求訴訟を乱発している。
しかし、元徴用工に対する補償問題は日韓請求権協定で解決済みである。50年前、日本が韓国に対し、無償3億ドル・有償2億ドルの計5億ドル、さらに民間融資として3億ドルの経済支援をする代わりに、韓国は個人・法人の請求権を放棄するという協定が結ばれた。協定の第2条1項では請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と明記されている。
つまり、日本政府からの経済支援金を使って、韓国政府が元徴用工らへ補償を行なうはずだったのだ。
ところが当時の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領(朴槿恵・大統領の父)は協定の内容を国民に伏せ、経済支援金を公共事業など経済政策に使い切ってしまった。
当時の韓国の国家予算は3億5000万ドル程度で、8億ドルの支援は莫大な額だった。それにより韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長を遂げたが、その一方で元徴用工の補償は行なわれなかった。韓国戦後史の闇である。もちろん韓国でも政界や法曹界ではよく知られたことである。韓国問題に詳しい東京基督教大学の西岡力教授が解説する。
「反日姿勢を鮮明にしていた盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、2005年に日韓国交正常化交渉の外交文書を公開し、『韓日会談文書公開の後続対策に関連する民官共同委員会』を作って日本への賠償請求を検討させた。そこでの検討ですら、日本に補償を求めるのは無理と2006年に結論づけられ、元徴用工らには韓国政府が支援すべきだとしていました」
それを「個人の請求権は消失していない」と無理矢理ひっくり返したのが2012年5月の韓国大法院(最高裁判所)判決だ。元徴用工や遺族9人による新日鉄(現・新日鉄住金)と三菱重工を相手取った訴訟で、原告の請求権を認める判決を下したのである。西岡教授が断ずる。
「これは国際法を無視した判決です。もし、こういうことが今後も起きるのなら、どの国も韓国とは何の条約も結べなくなります」
本当に日韓が雪融けの道を歩むのであれば、韓国政府自らが真っ先に元徴用工に(日本から預かったはずの)賠償金を渡すべきだが、そんな素振りはない。
安倍晋三首相はこれまで中国の海洋行動を牽制するために、「国際社会における法の支配が重要」と繰り返してきたのだから、何よりもまず国際法無視の暴走判決を厳しく批判すべきだ。
目の前にある問題から目を逸らせて友好関係を作ろうとしても、手痛いしっぺ返しを食うことになる。
※週刊ポスト2015年7月10日号