中国とロシアは世界にとっていま、もっともやっかいな国で、その二か国の指導者である習近平とウラジーミル・プーチンとどのように付き合うかは、世界の指導者にとって重要な課題だ。作家・落合信彦氏が安倍晋三首相の対ロシア、対プーチン戦略について解説する。
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先月号で中国が埋め立てを進めているスプラトリー諸島(南沙諸島)をめぐり、米中による「軍事衝突」に発展する危険性があると指摘したが、実際にその後アメリカが明確な埋め立て反対を表明したのは周知の通りだ。すると、中国は埋め立てを“一時停止”すると発表し、事態の収拾に動いた。私が指摘した通り、中国の想像以上にアメリカはこの問題で態度を強硬化しており、焦った中国が引いた格好だ。
だが、中国がおとなしくしているのもおそらく9月に習近平が訪米するまでのこと。それが終われば、中国は再び南シナ海に戻って仕事を続けるだろう。
その習近平と並んで、いま世界でもっとも嫌われている指導者が、ロシアのプーチンだろうが、その嫌われ者のプーチンに唯一媚を売っているのが、この国の首相である安倍晋三だ。
安倍は、6月8日にドイツで行われたG7終了後の記者会見で、「北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を本年の適切な時期に実現したい」と明言した。ウクライナ問題で昨年、G7からロシアが排除され、今回もロシアへの批判が相次いだにもかかわらず、安倍はその直後にプーチンにラブコールを送ったのだ。
北方領土問題で国内世論向けに自分の得点を稼ぎたいがために、アメリカやヨーロッパの反対も顧みずに宣言したわけだ。
だが、そのロシア側はどうかというと、安倍がそう宣言した同じ日、国防大臣が北方領土への軍事施設建設を表明したのである。日本のメディアはほとんど報じていないが、ロシアに北方領土を返すつもりがないことなど、これだけで明白ではないか。
もちろん、プーチンはいざ日本に来たら、「解決に向けて対話したい」などと一定のリップサービスをするだろう。すでに6月19日にプーチンはサンクトペテルブルグで「すべての問題は解決可能」と言っている。さっそく日本にエサをぶら下げているのだ。
だが、その発言に具体的な内容など何もないし、実際に解決に向けて動き出すこともない。ゴルバチョフのときもエリツィンのときも同じようなことがあったが、返って来る目処(めど)などたったことがない。
※SAPIO2015年8月号