去る6月24日の夕刻、安倍晋三・首相を乗せた専用車は新橋の料亭街から少し離れた静かな一角に停まった。
かつての料亭政治を彿彷させる瀟洒な座敷で待ち受けたのは大手メディア幹部たち。朝日新聞の曽我豪・編集委員、毎日新聞の山田孝男・特別編集委員、読売新聞の小田尚・論説主幹、日本経済新聞の石川一郎・専務、NHKの島田敏男・解説副委員長、日本テレビの粕谷賢之・メディア戦略局長、時事通信の田崎史郎・解説委員と、いずれも安倍氏とは顔なじみの重鎮で、2時間にわたって宴席は続いた。
この日訪れた「銀座あさみ」は懐石コースが1万3000円から2万円。生ビール1杯1080円、人気の日本酒「獺祭」は4合で1万2960円という高級料亭である。
「2つの言論弾圧事件」はその翌日に起きた。1つは、いうまでもなく作家・百田尚樹氏を招いて自民党若手議員が開いた「文化芸術懇話会」だ。議員たちは口々に、「マスコミを懲らしめろ」「文化人から経団連に働きかけて広告を止めてほしい」などと暴言を吐いた。百田氏は「沖縄の2つの新聞は潰さなあかん」などと応じた。
もう1つの事件は「小林よしのり口封じ」である。安倍政権に批判的な小林氏を招いたリベラル派の勉強会が、党上層部の横やりで中止に追い込まれた。
このうち懇話会事件のほうは、「広告料」という自分たちの財布に手を突っ込まれたメディアが反発し、新聞協会、民放連などが抗議の声を挙げたものの、「懲らしめ発言」の大西英男・代議士は厳重注意を受けた後にも同じ主張を繰り返し、責任を問われた安倍首相は「お詫びはできない」と嘯(うそぶ)いた。
それを見た安倍チルドレンたちは、「本音をいって何が悪い」とばかりに暴言議員をかばい始め、青年局長を解任された木原稔・代議士には処分軽減が検討された。
※週刊ポスト2015年7月17・24日号