国税庁は7月1日、相続税や贈与税の算定基準となる2015年分の路線価格を発表。東京都は2年連続で下落地点がゼロだった。路線価格が上昇すれば、相続税にも当然影響が生まれるが、「親の遺品を整理していたら、まとまった現金が出てきた」というケースもあるはず。相続対象者のうちの1人が服役している場合、その人物にも遺産を受け取る権利はあるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
借金ばかりしていた父が急死。遺品を整理していたら、500万円の現金を発見しました。母もすでに逝き、遺言書もないので、実子である私がお金を譲り受けたいのですけども、問題は傷害致死で服役中の兄がいること。刑期は7年残っているのですが、服役していても遺産を受け取る権利はあるのですか。
【解答】
服役していても、相続できます。相続人が地位を失うのは相続人に欠格事由があるか、家庭裁判所によって相続人から廃除されることが必要です。民法第891条は相続人の欠格事由を定め、その第1号は「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」です。
お兄さんがお父さんの殺害未遂で服役しているのでなければ、該当しません。他に、被相続人殺害を知りながら、捜査がないのをいいことに告訴しない者(2号)、詐欺や脅迫で遺言や、その撤回などを妨げたり(3号)、逆にさせた者(4号)、遺言書を偽造、変造、破棄、または隠匿した者(5号)があります。
1号や2号は極端で稀です。3号以下は、遺言への不当干渉を問題にしています。口出ししすぎて本人に遺言書を強いたりすると3号や4号のあらぬ疑いを掛けられます。
多いのは5号のケースです。実際の遺言書の最後に書き加えても変造です。遺言者の死後、自筆証書遺言を発見した相続人が、判がないので押印して、形式を整えた事件がありました。むろん遺言は無効ですが、それ以上に相続人の資格も争われたのです。
この事件で裁判所は、遺言者の真意の実現のために法形式を整えただけなので、相続人欠格事由ではないと救ってくれましたが、手を加えることはやってはいけないことです。さらに、遺言書を隠していると相続人の資格を失うことになるため、注意が必要です。
相続人の廃除は、被相続人本人への虐待や非行など特別の事情があるときに、被相続人本人が生前に家庭裁判所に廃除を申し立てるほか、遺言で廃除することもでき、その場合は遺言執行者が申し立てます。しかし、一般に裁判所は廃除を認めることには慎重です。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年7月17・24日号