「鹿児島ハイボール」を片手ににっこりと笑う男性。彼の名は、山田雄(やまだ・たけし)さん(62)。ラーメン好きの間で知らぬ者はいない、1990年代に一大旋風を起こしたラーメンブームの火付け役として知られる「麺屋武蔵」の創業者だ。バレンタインにチョコのつけ麺を出すなど、型破りな発想でも有名な「麺屋武蔵」だが、その斬新さは会長である彼の真骨頂ともいえる。
「屋号は宮本武蔵に由来しているのですが、『前例なしの亜流なし』のムサシイズムが、ぼくのモットー。世の中に出ていない目新しいものや、各地に眠る文化を発掘して提示したい」
例えば、2007 年にはラーメンの缶詰をプロデュース。「山田さんがまた面白いことをやっている」と話題を呼んだが、現在は北海道の農家と組み、なにやら新しい構想を練っている。
「道産のうまいそばを北海道の農産物とコラボさせて、これまでにない商品を北から発信する予定です。農家さんと一緒に知恵をしぼり、『こんなの欲しかった!』とお客さんが喜ぶヒットをぜひ、世に送り出したい」
他方、「自分が好きじゃないと、想像力がかきたてられない。だからぼくが旨いと心底感じたものだけをプランニングする」。
というポリシーのもと、先月末に誕生したのがラーメン缶ならぬ、焼酎ハイボール缶。その名も「鹿児島ハイボール」。甲類焼酎を使う既存の商品と違い、乙類の本格焼酎を使った高級缶酎ハイで一線を画す。
「西酒造の焼酎『富乃宝山』が大好きで、何十年も前から飲んでいたんです。本格芋焼酎のふくよかな香りや芋の甘みを存分に愉しむために、飲み方は決まって炭酸割り。ある日ふと、“あ、これを缶にしたら面白いんじゃない?”と、思いたった。市販の缶酎ハイは、甘い口当たりのものばかり。“酒好きを唸らせる本格派の缶酎ハイがあれば、お客さんも喜ぶはず”と思い、だったら好きな『宝山』の西酒蔵と是非とも一緒にやりたいとアプローチしたんです」
新商品の「鹿児島ハイボール」には、鹿児島県産芋の焼酎を2種類ブレンド。商品のためだけに特別限定酒を作ってしまうこだわりと斬新さで、山田イズムを体現した。ラーメン店の枠を超え、プランナーの才覚で世を賑わす山田さん。その胸の奥には熱い信念が宿っている。
「日本にはすばらしい農家さんがいて、世界に誇れる農産物がある。ぼくは商品のプランニングを通じて、日本の農業を活性化したいんです。そばでも焼酎でも、商品としていかに料理するか。時代のニーズを読み、数珠つなぎでプランニングをすると、答えは無数に出てくる。面白くて仕方がないですね」
山田さんの夢は尽きない。
※女性セブン2015年7月23日号