「グラウンドには銭が埋まっている」プロ野球選手たちの「年俸」をテーマにした大ヒット漫画『グラゼニ』(講談社刊)の名文句である。日本最大のスポーツビジネスであるプロ野球界は、下は200万円台から、上は数億円まで、年俸によって格付けされる「超格差社会」でもある。その明暗を、現場取材に基づき漫画化した原作者・森高夕次氏が語る。
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『グラゼニ』の主人公、凡田夏之介は連載開始時点でプロ入り8年目の26歳、中継ぎ投手で年俸は1800万円です。同世代のサラリーマンに比べれば破格の給料に思えるかも知れませんが、30歳を超えたらあと何年できるかわからないという商売において、決して安心できる金額ではありません。
だからこそ凡田は、選手名鑑で各選手の年俸をチェックして、「自分より給料が高い選手は“上”に見て低い選手は“下”に見てしまう!」という。選手たちを取材してみても、実際にそういうことはあるんです。
大阪桐蔭高校のエースとしてドラフト1位で巨人に入りながら一度も一軍に上がることなく引退した辻内崇伸氏に取材できる機会がありました。彼は阿部慎之助選手のことが「とてつもなく大きく見えた」と語っていました。辻内氏の年俸は引退時で550万円、対する阿部の年俸は6億円、つまり100倍です。辻内氏の頭に年俸のことなどなかったでしょうが、阿部の威厳のバックボーンに年俸の影響があるのは否めません。
プロ野球の世界では、原則的には成績が年俸に反映されます。たとえば年俸500万円の二軍投手がローテーションの谷間でたまたま一軍に上がってマウンドに上がり、1勝するだけで翌年の年俸が700万円に跳ね上がる。1日で給料が4割アップする世界なんです。
とはいえ、成績がすべてストレートに反映するかというと、そうとは言えない。球団の懐具合によって年俸総額が違いますし(巨人44.5億円に対し横浜DeNAは22.3億円)、球団のなかでも、「どんぶり査定」の選手が存在する。8割方の選手は成績に基づいてコンピュータのソフトが金額をはじき出すのですが、トップ選手の場合、「ソフトによれば1億円だが看板選手だから3億円」といった「どんぶり査定」があり得るんです。
しかもその分のしわ寄せが、下の選手たちにやってきて、年俸が実際の成績より低く抑えられるケースが多々ある。プロ野球は「夢を売る世界」であるがゆえに、徹底した格差社会でもあるんです。
※SAPIO2015年8月号