安倍晋三首相は保守派の政治家といわれるが、その“思想”は、この国の伝統的な「保守思想」とは全く違う。
自民党の伝統保守はリベラルからタカ派まで多様な意見があり、互いの意見の違いを認めながら議論を重ねて政策を決めていった。時には折衷が過ぎて「ヌエ」と揶揄されもした。
しかし、安倍氏は改憲派であっても安保法案に反対する勢力は敵と見なして排除し、政策の方向性ではなく「安倍に従うか否か」がすべての基準になっている。それは親中国・親韓国か、嫌中国・嫌韓国かという二元論で善悪をはかるネトウヨの論理によく似ている。
安倍支持派議員の「文化芸術懇話会」での「マスコミを懲らしめろ」発言はそのことを象徴している。
ネトウヨの世界では、新聞やテレビで中国や韓国寄りと判断した報道があると、番組スポンサー企業の「お客様相談窓口」に苦情電話を集中させ、「なぜあんなメディアに広告を出すのか」と圧力をかけるアクションがしばしば起きる。電話で突撃をもじってそれを「スポンサー電凸(でんとつ)」と呼び、これまで朝日新聞やフジテレビなど多くのメディアや番組が標的になってきた。
しかし、一般市民の発言や行動と、政治家に許される言動には厳然と違いがある。百田尚樹氏が講師を務めた勉強会での、「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。われわれ政治家、ましてや安倍首相にはいえないが、文化人、民間人が経団連に働きかけて欲しい」という大西英男・代議士の“懲らしめ”発言は、ネトウヨの「電凸」と全く同じ発想で、自ら手を汚さないだけ一層卑怯である。
「子供たちに悪い影響を与えている番組ワースト10を発表し、広告を出している企業を列挙すればいい」という井上貴博・代議士の発言も、政権与党が“有害”と認定した番組を排除しようという、メディアへの露骨な恫喝だ。
※週刊ポスト2015年7月17・24日号