長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師は、チェルノブイリや中東での医療支援を続けている。たびたび訪れているイラクの難民キャンプで聞いた、IS(イスラム国)による迫害の様子を鎌田氏が報告する。
* * *
6月上旬、イラクのアルビルとダラシャクラン、そしてドホークの難民キャンプの巡回診療に行ってきた。今年に入って3回目の訪問だ。
日本人人質が殺害された年明けには日本中がIS(イスラム国)に関心を抱いていたが、いまは往時ほどの報道もなくなった。しかし、現地ではいまも深刻な状況が続いている。今回もISの迫害から逃れてきた多くの人々と、あちこちで出会った。
外部の情勢が危機的状況に陥っているだけに、クルド自治区のドホークの難民キャンプにいる子どもたちをなんとか元気づけようと、僕らは日本からかき氷機を持ち込んだ。炎天下、かき氷を作って彼らにふるまおうというのだ。なにしろ外は43度の猛烈な熱波。子どもたちは大喜びで、お祭りのようになった。
その中で巡回診療をしていると、19歳の若い女性と出会った。彼女はISに拉致されて、なんと8人の男性と結婚させられたのだという。最後の結婚相手が「かわいそうだ」とクルドの治安部隊ペシュメルガまで送ってくれて命拾いしたそうだ。
また15歳の少女は、35歳と25歳の男性と結婚させられた。最初の夫からは、イスラム教に改宗させられた。2度目の結婚では、結婚して3か月後に夫の弟が「これはよくないことだ。逃がしてやれ」と助言してくれて、逃れてきた。ISの戦闘員の中にも真っ当な人間がいることに安堵した。
彼女はチャンスを見つけ、有刺鉄線を切り、同じように捕まっていた女性たちと逃げたのだという。二人の女性たちはいずれもヤジディー教徒だ。ISは宗教差別をして、ヤジディー教徒なら奴隷にしてもいいと宣言している。とんでもない話だ。
僕が代表を務めるJIM-NETでは、こういう女性たちを車で2時間ほど離れたところにある病院に連れていき、婦人科の診療も受けられるようにしている。今もまだ4000人近い人々が拉致されている。一刻も早く救出しなければいけないと思う。
拉致された男の子は、15歳くらいから戦闘員として利用される。戦闘員になると月に5000円くらいの給与が支払われるとか。洗脳と金──貧困とテロは常につながっている。雇用が必要なのだ。
※週刊ポスト2015年7月17・24日号