現在国会では、与野党が安保法制を巡って論戦を繰り広げている。しかし、当事者となる現役自衛隊員たちが考える争点は別の所にあるという。ジャーナリスト・田上順唯氏がレポートする。
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この安保関連法案の議論で争点になっていたのは、「集団的自衛権行使の領域が無制限に拡大するのではないか」「アメリカの戦争に巻き込まれるのではないか」「自衛隊員のリスクが高まるのではないか」という点だ。
しかし一部の自衛隊員の中には、こうした論議から一歩先の議論を求める声もある。
「一番大きな課題は、自衛隊の予算不足に起因する問題です。装備品が足りないとか、100名いるべき部隊に80名しかいないとか、充足率低下が慢性化しているのです。
部隊では人が足りないので、業務を一人で複数担当し、超過勤務が何週間も続いたりする。1か月休暇がないなんて隊員もザラなのです。隊員が疲弊すれば部隊も疲弊します。これでは、いざというときにポテンシャルをフルに発揮できません」(陸自3曹)
そのうえ次々に部隊が新設されると、既存の部隊から経験豊かな隊員を中心に引き抜かれてゆく。人員を引き抜かれた部隊は通常業務にも支障をきたす恐れがある。それが隊員たちの精神状態にも影響する。
6月5日に閣議決定された、民主党・阿部知子議員の質問への政府答弁書によると、2013年度の自衛隊員の自殺率(人口10万人あたりの自殺者数。事務官を除く)は、33.7人で、国内の成人25.4人、一般職の国家公務員21.5人を上回っていた。
10年ほど前から自衛隊では隊員のメンタルケアに力を入れ、自殺率は減少傾向にあるが、それでも依然高い傾向にある。
「インド洋・イラク派遣隊員、延べ約2万600人のうち自殺者が56人も出たという話が取り沙汰されていますが、原因は戦場でのトラウマだけではなく、こうしたオーバーワークも影響しているのではないかと思います」(陸自2曹)
激務からうつ病になったり、自殺したりする隊員は多いという。実際、この日の取材に同席するはずだった隊員が欠席した。理由を聞くと、まさにうつ病による休職だった。
※SAPIO2015年8月号