昨年の名古屋場所で、横綱初挑戦にして、鶴竜と日馬富士から連日「金星」を獲得した大砂嵐(23才)。初挑戦から2日連続金星は史上初という記録まで打ち立てたスーパールーキーだ。
エジプト出身らしい彫りの深いルックスに、引き締まった体。記者が「モテるでしょう」と声をかけると、「そやで(笑い)」とにやり。「(カッコいいと)いつも言われています。おおきに」と、おちゃめな顔を見せる。
「どこの部屋でも、アラブ人はこれまでいないからと断られた。大嶽親方が『やる気があれば、宗教や国籍は関係ない』と言ってくれて、すごくうれしかった。でも、実際に入ってみると本当に大変でしたよ。エジプトにはない上下関係にはびっくり。エジプトでは力が強い人が上という単純な関係。新人がトイレ掃除することもカルチャーショックだった。ぼくにはアラブ独特の文化がある。それに、お祈りや食事など、宗教のことも知ってもらわないといけなかった」
イスラム教徒は戒律で豚肉が食べられないので、ちゃんこでも豚肉は避け、鶏でだしをとったものを食べなければいけない。最大の試練は、7月のラマダン(絶食月)だ。今年は6月18日~今月16日までで、名古屋場所に直撃する。取材中でも、稽古中に他の力士が水分補給をする中、大砂嵐だけはまったく水分を口にしなかった。
「朝3時半から夜7時半まで何も口にできないんです。ご飯はもちろん、水も飲めません。でもやるしかない。入門して4回目の名古屋場所ですが、ラマダンに当たるのは3回目。脱水症状にならないように親方がホースで水をかけてくれたりもしましたが、体が冷えて稽古にならないのでやめました。部屋では大勢でお風呂に入るのですが、最初は抵抗があった。でも、今じゃひとりで入るのは寂しいから、誰もいないと付き人を呼んで一緒に入るくらい大好きです」
ラマダンの時期は稽古後に大好きな風呂へ入ると、部屋へ直行。エジプトのドラマやコメディーを見て、心を落ち着かせている。
彼の口ぐせは「やるしかない」。夢の実現のため、家族のため、「大好きな相撲をしっかり覚えるため」、どんなことも頑張るしかないと語る。親方の師匠、故・大鵬親方からの言葉も心に響いた。
「四股、テッポー、すり足と基本を一生懸命やれば、すぐに関取になれると、励ましてくれました。エジプトにも我慢の文化はあるけど、日本はもっとすごい。謝りの文化も好きです。エジプトにはなくて、つい謝る前に説明をしてしまうけど、謝ることはすごくいいことだなって思う」
将来は帰化して親方の道を歩むつもりか尋ねると、「今のことしか考えない」ときっぱり。
「ぼくが成功しないと、後が続かない。アフリカ大陸で初めての力士なので、責任が重大だと思っています。先駆者として、頑張らないとね」
国境を越えた外国人力士たちの相撲へのひたむきな情熱は、相撲界を盛り立て、国技を支えている。「相撲を愛する気持ち」がそこに見えるからこそ、私たちは彼らを応援したくなるのだろう。
※女性セブン2015年7月30日・8月6日号