今でこそ「品格と節度」(新聞倫理綱領)を掲げる新聞だが、戦前までは事情が違った。明治、大正、昭和初期の新聞をめくると、「朝日」「読売」などの全国紙も売り物の目玉記事は、男と女のスキャンダル。現代の週刊誌と見紛うほどの色っぽい仰天記事にあふれているのだ。『三面記事から見る戦前のエロ事件』(彩図社刊)の著者・橋本玉泉氏協力の元、当時の新聞を飾った「エロ・グロ」事件を厳選した。
【男性の“仮病入院”が殺到した神奈川県の売春病院(明治41年5月3日・東京朝日新聞)】
明治末期、身元不明の女性が栃木・日光にある華厳の滝で投身自殺した。警察が女性の素性を調べると、驚愕の事実が発覚した。
女性は相州中郡平塚町(現・神奈川県平塚市)の病院に勤務していた元看護婦(20)。ハーフ風の美貌で知られた彼女はなんと、勤務中に複数の患者と性交を繰り返し、妊娠していた。お腹の子の父親が誰かわからないほどの「ご乱行」ぶりだった。
やがて、その病院のさらなる裏の実態が明らかになる。看護学校出の看護婦は少なく、〈堕落女学生〉や〈酌婦上がりのハイカラ〉が職業紹介所からなだれ込んでいた。その結果、〈風紀至ってあしく密に患者に春を売るもの少なからず〉、1年間で4名の看護婦が妊娠したほど。とんだ「売春病院」だったのだ。
記事はさらに売春目当ての「仮病入院」の増加を伝える。
〈患者中に清国留学生多く、此等学生は看護婦の売春を目的に健康体に病を装い入院するもの多しとなり〉
なぜか中国からの留学生がこの噂を聞きつけ、殺到していた。昨今の“爆買い”中国人客を彷彿させる?
※SAPIO2015年8月号