「数の力」で国会は強行突破できても、世論の反対を力で封じ込めることはできない──。15日、安倍晋三首相は野党の抵抗の中、集団的自衛権行使を盛り込んだ安保法案を衆院特別委員会で強行採決した。
その前夜から、国会周辺は不穏なムードに包まれた。東京の日比谷野外音楽堂で開かれた反対集会には3000人収容の会場に入りきれないほど参加者が詰めかけ、そのまま2万人(主催者発表)が「憲法違反だ!」「戦争反対!」と声をあげながら国会へのデモに参加した。
大メディアは「政府は説明不足」と書き、閣内でも石破茂・地方創生相や塩崎恭久・厚労相から「国民の理解はまだ進んでいない」と首相の姿勢に疑問の声があがっている。だが、彼らもわかっていない。
現実は逆だ。国民の理解が深まっているからこそ、法案への不安が高まり、反対運動の波が全国に広がっているのだ。新聞・テレビの世論調査でも、安倍内閣の支持率は39%(朝日新聞)まで下がり、毎日新聞、NHK、NNN(日本テレビ系列)でも不支持が支持を逆転した。
そのことを一番肌で感じているのは安倍首相自身だろう。だから国民の法案理解がこれ以上進むことに恐怖を感じて自民党議員にテレビ出演を禁じ、あえて説明不足の状態のままなりふり構わず採決へと走った。
「強行採決への批判で支持率が5ポイントくらい下がるのは想定の範囲内だ。法案を成立させさえすれば、国民も喉元過ぎればいずれ熱さを忘れる。むしろ審議に時間をかけて反対論がさらに強まり、成立断念に追い込まれる方が政権には致命的なダメージになる」(官邸の首相側近)
安保法案の審議はこれから参院に移る。参院でも自民、公明の与党が過半数の勢力を持つ以上、首相が数の力で成立させることは可能だ。だが、本当の主戦場は国会ではなく、安倍首相が戦う相手は世論そのものになる。首相にとっても、国民にとっても「暑い夏」が来た。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2015年7月31日号