オーディション社会。時に韓国は、こう称される。アイドルの選抜イベントが近年日本で話題になったが、そうした競争が、韓国では日常の到るところで行われている。
特に、企業文化にその傾向が強い。韓国企業で働いた経験を持ち、現在はソウルの日系エネルギー企業で働く韓国人の33歳男性は、「競争重視の韓国企業は、辛かった」と思い返す。
日韓の違いが最も表れたのは会議の時だったという。
「韓国の会議は、不必要に騒がしい。理由は簡単で、誰もが自分の意見を曲げないから。参加者から出される複数案のうち、採用されるのはただ一つ。その提案をした人間のみが成功者で、あとは負け組とされてしまいます」
一方の日本は。
「話し合って、落とし所を決めるじゃないですか。滅多に言い争いにならない。採用された案には皆の意見が反映されるため、その後のプロジェクト進行も協力しながら進む」
とはいえ日本人からしてみると、日本企業の会議は、回数も多く、時間が長いとして、見直しの動きもあるが……。
「そんなことはない。自らの案を通すことに執念を燃やす韓国人のそれと比べれば、よっぽど効率的なんです」
韓国の金融企業で8年働いた後、現在の日系電機メーカーに移って11年の43歳男性も、日本の職場環境を評価する。
「スタッフ間の礼儀もあるし、何より職場に倫理性がある」
礼儀はともかく、倫理性? 我々が自覚することはそうそうないが、どういうことか。
「韓国企業は軍隊文化が浸透しているんですよ。上司のリーダーシップが強く、上の指示はほぼ命令。迅速に業務が進む一方、ボスに異論を挟むことは禁じられているから仕事に透明性がないんです」
現在、韓国では企業内の不正が社会問題になっている。トップへの賄賂や、彼ら自身の横領が横行しているためだ。規律を重んじる軍隊社会がその要因の一つだとすれば、皮肉な話だ。
この男性によれば、「日本人は、重要な案件を一人が決める事なく、部下の意見も求める」という。裏返せば日本企業は、責任の所在がはっきりしないとも言えるのだが。
来日して4年、現在は飲食店に勤務する韓国人男性(34歳)も「日本の良いところは職人を大事にするところですよね」と言う。
韓国では、いくら現場に専門的技能や能力のある人間がいても、偉いのはエリートであり、経営者だ。
「日本は職業に貴賤はありません。水商売やAV女優から、タレントに転身するなんて韓国ではまず無理です」(同)
※SAPIO2015年8月号