【書評】『真壁家の相続』/朱野帰子著/双葉社/1620円
【評者】末國善己(文芸評論家)
今年1月の増税で、庶民も相続税を払う可能性が高くなった。真壁麟太郎が残した土地と古い家屋、わずかな預金をめぐり、一族が骨肉の争いを繰り広げる本書は、遺産相続のトラブルなんて金持ちの話と考えているかたに読んでほしい作品である。
大学生のりんは、母親の容子から祖父の麟太郎が亡くなったとの知らせを受ける。葬儀に集まったのは、失踪して現在も行方不明の次男で、りんの父でもある渓二郎を除く1男2女と配偶者など身内だけ。
相続も兄妹4人で均等に配分して終わりと思いきや、麟太郎の隠し子という植田大介の登場で、ややこしくなる。
まず、大介が本当に麟太郎の隠し子なら財産は5等分となる。さらに一族に迷惑をかけた渓二郎には相続放棄をさせるという話も出てくる。すると麟太郎の介護をした嫁の容子は、1円ももらえなくなるのだ。
麟太郎の子供たちは、悪人ではないし、特別に欲深いわけでもない。ただ仕事や生活を守るために、少しでも多くの遺産を獲得しようとごく常識的な動きをするため、結果的にエゴとエゴのぶつかり合いになってしまう。これに子供の頃から積み重なってきた兄妹への不満や、相続権がない配偶者の意向もからみ、次第に収拾がつかなくなるのである。
遺産相続で争点になりそうなケースを網羅しながら、相続で肉親が争うようになるメカニズムにまで切り込んだ本書は、相続問題がどの家庭でも起こり得ることを実感させてくれる。そのため、仲よくまとまっていた真壁家が争いの渦に巻き込まれる展開が、身につまされるはずだ。
※女性セブン2015年7月23日号