戦後70年の今年、大岡昇平の戦後文学を代表する『野火』(7月25日公開)が映画になって公開される。監督は個性的な作品で海外にも多くのファンをもつ塚本晋也氏(55才)。予算がほとんど集まらなかったにもかかわらず、「今つくらなければならなかった」理由を語ってもらった。
――資金繰りが大変だったと聞いています。
塚本:大変以前にどうにもならなかったですね。戦争を扱っている大作なのでもともと予算はかかると考えていました。ぼくは、大きな会社からお金をいただいて、きちんと大きな映画をつくりたかったんです。そのお金が集まらないことが20年くらいずっと続いていました。
――予算はいくらだったんですか?
塚本:スタッフにギャランティーをきちんと出すことなども含めて、当時プロデューサーが算出したのは6億円でした。海外からお金を集めようと企画を持ち込みましたが、最終的にはダメだった。どうしてもつくりたいけどそれより予算を下げてしまうと持ち出しになってしまう。なるべく持ち出ししないでやりたかったので、そのままになってしまいましたが、持ち出しになってもつくりたいと思ったのが10年くらい前でした。
――いくらくらいで始めたんですか?
塚本:最終的に、主演のキャストにはみんながよく知っているキャストにする。スタッフにも最低のお金は出す。そうすると2億円規模+持ち出し、になるかなという感じだったんです。ところが、それもままならず。結局、最終的にやろうと思ったときにはお金は2億円どころか0に近かった。ほとんどないような状態だったんです。普遍的なテーマですし、今まではいつか撮れればいいと思っていたんですが…。
――何が問題だったんでしょうか。
塚本:具体的に動き出した3年前にはすでに、戦争で主人公がボロボロになっていく映画にお金を出すという風潮ではまったくなくなっていた。そればかりか、日本が戦争に急速に向かっている気配が濃密に漂っていた。20年前からつくりたいという気持ちだったんですが、3年前から「つくらなきゃ」という強さになりました。自分の作品的にも、世の中の流れ的にも、もうあとには回せないと。今つくらなければもうできないという焦りと、今このタイミングでお客さんに映画をガツンとぶつけなければいけないという強い思いがモチベーションになりました。
――今の安倍首相、政府の動きには、戦争へ向かっているのではないか、という批判があります。