朝日新聞紙上で、ある議論が話題をさらっている。といっても、慰安婦問題や原発問題などではない。きっかけは5月17日付朝刊の読者投稿欄「声」に掲載された、山形県在住の66歳男性の投稿だった。
「タレントを含めて若い人が、妻を『嫁』と言うことに違和感を感じる。40年ほど前に結婚した私たちは『嫁』や『主人』という言葉は使うまいと決めた。戦前の『家制度』を思い起こすからだ。現憲法では結婚は個人と個人のものであり、女性が他家に嫁ぐことではない」
さらに、「若い人には『嫁』や『主人』などを使わずに、何と呼ぶべきか模索してほしい」と呼びかけた。
要するに第三者の前で自分の妻をどう呼ぶべきか、という話なのだが、これが同欄で“大論争”に発展した。
20歳の女子大生が「私は『嫁』ではなく『妻』が、『主人』ではなく『夫』がいい」といえば、75歳の主婦は「こだわりすぎだと思う」と反論。「その場に応じた色々な呼び方に、私は日本人の言葉を大切にする奥深さを感じる」として、「嫁」の呼び名を肯定した。論争はインターネット上にも飛び火し、ちょっとした騒ぎになっている。
たしかに、いわれてみると妻の呼び名は、「妻」「嫁」のほか、「家内」「女房」「かみさん」「奥さん」、かしこまった「妻(さい)」、ぶっきらぼうな「うちのヤツ」、さらに西洋かぶれした「ワイフ」まで千差万別である。使っている呼び名の背景に、その人の男女観や結婚観が感じられる点が、話題を呼んでいるのかもしれない。
経済アナリストの森永卓郎氏(58)は「嫁」という呼称に違和感を覚えるという。
「私の世代は『嫁』というのは息子の奥さんを指していう言葉であって、自分の妻を嫁と呼ぶのはテレビの影響で若い世代に浸透したものだと思います。私が初めて聞いたのは(芸人の)土田晃之さんが『うちの嫁』といっていたときで、変だなと思った記憶がある。私の場合は『かみさん』です、私にとっては『お上』ですから(笑い)」
AV監督の村西とおる氏(64)も、「嫁」に納得できないひとり。
「私自身は『うちの女房』と呼んでいて、団塊世代では当たり前だと思います。その上で、若い世代に『嫁』という呼び方が広まることには異議を申し立てたい。
私たち団塊世代にとっては、『嫁』という言葉はとても重要なキーワードなんです。息子の嫁との妄想で浮かび上がって来る、料理をする後ろ姿や買い物に行く前掛け姿。『嫁』というのは本来、言葉を見ただけで勃起するものなんですよ! それを若造たちが勘違いして自分の妻に使うなんて怒りますよ。若い世代にはお父さんの聖域を侵さないでいただきたい」
※週刊ポスト2015年7月31日号