現在国会では、与野党が安保法制を巡って論戦を繰り広げている。しかし、当事者となる現役自衛隊員たちが考える争点は別の所にあるという。ジャーナリスト・田上順唯氏がレポートする。
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自衛隊の海外派遣が始まってすでに20年以上が経過したが、隊員が戦死した場合の処遇については何も議論されず、いまだ決まっていないのが現実だ。
「国会でも『もし戦死者が出たら……』と争点になりますが、有事になれば戦死者は当然出るでしょう。我々が気になるのは、もし任務で命を落としたら、靖国神社に祀ってもらえるのか? 勲章のひとつももらえるのか? といった国家に命を捧げた者の名誉の担保や『死んだ後のこと』を一切議論していないことです」(陸自1曹)
靖国に合祀するとなれば、中韓やマスコミが問題視することは確実と、議論を避けているフシがある。自衛隊員への顕彰として自衛隊内部では、退官後も終身保有できる「防衛功労章」や諸外国の勲章の略綬(リボン)に相当する「防衛記念章」があるが、有事で死傷した場合の扱いは「戦死傷時の基準はなく現状では不明」(防衛省大臣官房広報室)だ。さらに、こんな不安を挙げる。
「はたして見舞金や共済組合の保険金だけで残された家族は生活できるのか、子供を育て上げられるのか。いざ自分が撃たれたら、最期の瞬間に『家のローンは大丈夫か?』と考えるかもしれませんね」(陸自1曹)
戦死したあとに残される家族のことが、自衛隊員にとって一番の気がかりなのだ。
※SAPIO2015年8月号