インターネットで販売されていた「冷凍母乳」のなかに、母乳を人工乳でうすめた「偽母乳」や、感染症を引き起こす細菌が通常の母乳の最大1000倍含まれている不衛生なものがあることが報じられた。これは育児中のママたちに衝撃を与えるものだった。
生後3週間の赤ちゃんが飲むおっぱいの量の目安は1日720mlとされる。仮にすべて冷凍母乳を利用したとすれば1日約1万5000円かかり、1か月約45万円かかることになる。 それにもかかわらず「母乳ビジネス」が横行する背景には、日本の出産・子育ての現場で「人工乳(ミルク)を与えるママは母親失格」という行きすぎた“母乳信仰”がある。
確かに母乳は赤ちゃんにとって完全栄養とも呼ばれ、とくに初乳には赤ちゃんの免疫を高める成分が含まれている。WHO(世界保健機関)とユニセフは『母乳育児を成功させるための10カ条』を共同発表し、母乳育児の大切さを呼びかけてきた。
日本でも厚労省が母乳育児を推奨し、産院などで母親に、「母乳以外、一切与えるべきではない」という完母主義を指導するケースも多い。
しかし、母乳の出は個人差が大きい。必要充分な量の母乳が出るようになるのは一般的に産後2か月くらいからともいわれ、出る量、出る時期も個人によってバラバラだ。それだけに出産直後から行きすぎた完母主義に苦しめられる母親は多い。
「産んだその日からとにかく赤ちゃんにおっぱいを吸わせろと指導されました。出ていないようであまりにひどい泣き方をするので相談しても“赤ちゃんは3日分の栄養を蓄えて生まれてくるから大丈夫”と言われるだけ。ミルクや砂糖水をあげると母乳を飲まなくなるからと指導されました。
赤ちゃんの顔色は悪いし、出産直後で疲れきっていて、授乳室のママたちはみんな幸せというよりどん底というようなヒドい顔をしてましたね…」(33才)
「隣でたくさん母乳が出るお母さんを見ると、私は食生活や運動など生活スタイルのせいで母乳が出ないんじゃないかと自分を責め続けてしまう。頭の中が母乳でいっぱいになって母乳のことしか考えられなくなるんです。母乳のためには豆類を食べればいいんだと豆しか食べずに体調を崩したこともありました」(29才)
「母乳じゃ追いつかずに夜まったく寝られない生活で、粉ミルクを足すことにしましたが、罪悪感でいっぱいでした。粉ミルクを買ったことが、ご近所に知られることが怖くて毎回、子供を抱いてバスで離れた隣町のスーパーまで粉ミルクを買いに行っていました。母乳で育てないことは育児放棄だと思っていました」(34才)
※女性セブン2015年7月30日・8月6日号