6月30日に安倍政権は2015年版の「骨太の方針」を閣議決定した。財政健全化計画を盛り込んだこの方針には、骨太どころかまったく骨がないと大前研一氏が批判している。なぜ、骨がないのかについて大前氏が解説する。
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安倍政権は6月末、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を2020年度に黒字化するための財政健全化計画を盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太の方針2015)を閣議決定した。今後5年間の計画期間のうち2016年度からの当初3年間を「集中改革期間」と位置付けて「経済・財政一体改革」を集中的に進め、2018年度にプライマリーバランス赤字を対GDP比1%程度に縮減するという中間目標を設定している。
「骨太の方針」は、実質GDP成長率2%程度、名目GDP成長率3%程度を上回る経済成長によって、税収が大幅に増えることを前提にしている。たしかに2014年度の税収は消費税が3%上がったことを反映して約54兆円に達し、1993年度以来21年ぶりの高水準となったが、これをさらに増やしていくのは至難の業である。
となると、プライマリーバランスの2020年度黒字化という目標は、どうすれば達成できるのか? その方法は、大幅な歳出カットしかない。たとえば、公務員の数を国も地方も3分の1くらい削ったり、学校の先生を半分に減らしてサイバー教育で代替したり、農業補助金をすべて廃止したりする必要がある。増え続ける社会保障費についても、健康保険の患者の窓口負担割合を特殊な病気以外は4割にするなど、大胆に切り込まなければならない。
ところが「骨太の方針」には、そういう具体策がほとんど書いてない。それどころか、当初59兆円と言われていた歳出上限(キャップ)の数値目標設定を見送った上、「国の一般歳出の水準の目安については、安倍内閣のこれまでの3年間の取り組みでは一般歳出の総額の実質的な増加が1.6兆円程度となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続させていくこととする」と欄外に注記してある。
つまり、2018年度までは一般歳出を1.6兆円程度(そのうち1.5兆円程度は社会保障費)増やすわけだ。こんな調子では、あと5年で一気にプライマリーバランスを黒字化できるはずがないだろう。
よしんばプライマリーバランスを黒字化できたとしても、まだ1000兆円以上の借金が残っている。いわば、千里の道のりの一里塚にも達していないのだ。プライマリーバランスが黒字化した後、20年かけて半分の500兆円を返すとすれば、毎年25兆円ずつ返していかねばならない。そんなことは、どんな計算をしても不可能だ。要するに「骨太の方針」は、中身がスカスカで、骨太どころか、全く骨がないのである。
※週刊ポスト2015年7月31日号