5月に小説『ちゃんぽん食べたかっ!』を発表し、同作が原作のNHK土曜ドラマ『ちゃんぽん食べたか』もオンエア中のさだまさし。音楽に執筆にと幅広く活躍しているが、小説はいつ書いているのだろうか?
さだはこう語る。
「時間があればいつでも書いてますよ。でも、ひとつの話だけでなく、7~8つの話を並行して書いている。小説って同じ話をずっと書いていると飽きてくるじゃない? つまんないなコイツ、って主人公のことを思いだすと、もうこんなヤツのこと書くのが嫌だって、別の主人公を探すの。誰でも、多重人格なところはあるから、その時々の自分の気持ちにあったものを書いていくと、ピューッと筆が走るんですよね。
小説って、なんかこうワクワクしたいのね。だから、ぼくは自分の実体験の苦しみや痛みをジクジクと語るような本は書きたくない。ぼくが大事にしているのは、読後感。読んだ後で、読まなきゃよかったというような本だけは書かないようにしようと…、難しいけどね」
音楽も映画も小説も、『生さだ』(NHK総合)のMCも面白い。しかも、コンスタントにヒット曲を出し、昔の曲をいつ聴いても、古さを感じさせない。すべて一人のさだまさしから生まれていると思うと不思議だ。そんな思いをぶつけると…。
「語弊があるかもしれないけど、頭の中に4~5人いるね。『雨やどり』みたいな歌も書けば、『防人の詩』みたいなのも書くわけでしょ。ぼくは、確かに突出してるところはあるけれど、ダメなところはまったくダメ。高校時代の恩師・安本先生によると、『さだ、お前、国語は天才だけど、他はバカだな』って。確かに数学系ゼロ」(さだ・以下同)と笑う。
子供の頃から読書は好きなのだそうだ。
「ずっと読んでいますよ。今は、幕末から明治にかけての外交官が書いたものを中心に読んでいますが、漫画も読みますよ。池波正太郎系の漫画や、さいとう・たかをの『鬼平犯科帳』『剣客商売』(リイド社)なんかは、同じ話を何回も買って読んでます。『風の大地』(小学館)は64巻全部、買っちゃいました。持ち歩くのが大変だからiPadに入れて…。読むのに1か月以上かかりましたけどね。
縦書きの活字は、本をめくって読まないと頭に入ってこないね。何度も繰り返して読む本はとくにそう。『鬼平犯科帳』なんて、文春文庫全24巻を3回、その都度買って読みました」
好きな本を本棚から引っ張り出して読むことはないそう。
「それはやっぱり、作家に対する敬意でしょうね。読み終えたら人にあげる。そろそろまた『剣客商売』が読みたくなったら、全巻を買って読みます」
さださんの中心は何ですか?
「音楽。基本は音楽ですよ、やっぱり。作るのが9割で、歌うのが1割かな」
それまでじっくり考えながら話していた彼が、この質問だけは、間髪入れずに即答。
「音楽では表現しきれない部分を、小説を使ってやる。だから、小説の主題歌は全部かける。例えば、ベーチェット病で視力を失うかもしれない青年が、その先の人生のことを考える歌は書けないですよね。それで、小説『解夏』なんです。だから、小説も、音楽のためにやっているんです」
※女性セブン2015年7月30日・8月6日号