現在の日本では「待機児童」の問題など、保育園と保活に翻弄されるママたちの切実な現状がある。『保育園義務教育化』(小学館)の著書を持ち、これからの保育園の新しいあり方を提案する若手の社会学者、古市憲寿さんに改善策を聞いた。「日本はひとりっこ政策をしてこなかったけど、実質的にしているのと同じ。女性が子育てをしにくい環境をつくっているのは国や社会であることに気づいてほしい」。そう語る彼が提唱する「保育園義務教育化」――その仕組みとはどうなっているのか。
「保育園義務教育化」が実現できれば、多くの女性に、“子供を産んでも働けるという安心感”も与えられる。
「日本の未婚男女の9割が結婚したいと思っていて、理想の子供の人数は2人から3人です。保育園の義務教育化で子育ての環境が整ったら、多くの女性が安心して出産できます。つまり、出生率が向上して少子化解消につながります」(古市さん、以下「」内同)
そして、この制度は子供の将来にとっても有益となるという。
「ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のヘックマン教授が、“5才までのしつけや環境が人生を決める”と主張しているように、乳幼児教育は子供の人生において決定的に重要です。義務教育化をすることで、すべての保育園の教育レベルが一定水準になります」
さまざまなメリットがありそうな義務教育化だが、実現へのハードルは高い。
「義務教育化となれば、保育園を増設しなければいけないし、保育士の待遇の低さを改善しなければいけません」
また保育園の建設場所の確保も問題だ。現在、「園舎は原則2階建て」という厳しい法律があるが、古市さんはこの決まり自体も変えるべきだと言う。
「タワーマンションで子育てをしている人もたくさんいるのだから、ビルの中に保育園があってもおかしくないと思っています。ビルといっても自然光が差し込み、充分な広さを確保できるようにすれば、試してみる価値はあるでしょう。そうした保育園を建設するための制度を変えていくべきです」
それらを総合的に考慮した上で、保育園義務教育化は現代の日本に合った制度だ、と古市さんは主張する。
「終身雇用で毎年給料が上がっていた時代に正社員と専業主婦という生き方は正解でしたが、時代が変わりました。今は専業主婦は一部の特権階級の人にしかできなくなっている。そのような中、お母さん1人だけに育児を任せるのは負担が大きすぎる。女性が、仕事と子育てを両立できる社会のほうが個人も社会も幸せになれるのです。保育園の義務教育化は日本人全員の将来にかかわります」(古市さん)
※女性セブン2015年7月30日・8月6日号