高校野球ファンで、甲子園のネット裏最前列に陣取る「ラガーさん」を知らない者はいないだろう。蛍光イエローの帽子とラガーシャツがトレードマークの善養寺隆一氏(48)は、春夏の甲子園の期間中ずっとネット裏近くの8号門前で寝泊まりし、16年間全試合を観戦し続けている。
彼は、全国の予選大会のチェックも怠らない。7月22日、神宮球場の西東京大会・準々決勝に現われたラガーさんのお目当ては清宮幸太郎(16)だ。ラグビー・ヤマハ発動機ジュビロ監督の清宮克幸氏を父に持ち、リトルリーグではエース・4番として世界選手権を制覇。1年生にして名門・早稲田実業の3番に座る「プロ注目の大器」である。
「僕は松井秀喜、中田翔など、超高校級の選手を生で観てきた。彼らと比べて清宮くんがどう映るのか。本物のオーラを持っているのか。この目で確かめたかった」(ラガーさん)
西東京大会でも「スーパー1年生」の前評判に違わぬ大活躍だった。この日は3打数1安打(2死球)。ヒットは外角の球に軽くバットを合わせる技ありの一打で、「大爆発」とはいかなかったが、ラガーさんは大器の片鱗を感じ取った。
「ファーストを守る清宮くんは、テレビで観るよりすらっとしていた。正直、松井・中田クラスと比べれば体格では見劣りします。しかしバッターボックスに入ると驚いた。これまで観た1年生とは比較にならない風格です。一流選手に共通する、いい意味での“ふてぶてしさ”がある。それに体の柔軟性、リストの柔らかさがネット越しでも伝わってくる。PL学園の福留孝介(現阪神)や筒香嘉智(横浜高→横浜DeNA)と似たものを感じます」
この日の観客は実に1万3000人。平日の予選としては異例の数字だ。
「清宮くんには観る者をワクワクさせる生来のスター性がある。きっと彼は甲子園と大観衆が似合う。甲子園で再会できる日が楽しみです」
専門家も太鼓判を押す。「流しのブルペンキャッチャー」の異名をとるスポーツライター・安倍昌彦氏がいう。
「金属バットの反発に頼らないレベルスイングがすでに身についている。飛距離だけでなく、特筆すべきはスイングのバリエーション。いろいろな攻め方にとっさに対応できる反射能力が素晴らしい。プロでも、有数の長距離砲であると同時に、稀代のアベレージヒッターにもなれるバッターです」
「清宮伝説」はまだ序章に過ぎない。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2015年8月7日号