東京メトロ有楽町線の東池袋駅から地上に出ると、あっという間に、昭和3年から営業が続く『大林酒店』に到着する。
目の前には、この5月にオープンしたばかりの豊島区役所新庁舎が入る49階建てのタワービルがそびえたつ新しい風景。2年後には、すぐ近くのサンシャインシティ周辺を走る次世代型路面電車が着工予定だという。
一方、店前の大通りをもう少し歩けば、昭和のにおいを漂わせて走り続ける都電荒川線に出合えるし、多くの著名人が眠ることで知られる雑司ヶ谷霊園にもたどり着く。仕事を終えたサラリーマンたちが集まってくるこの店は、変貌し続ける池袋と、昔の風情を残す雑司ヶ谷がない交ぜになった場所で、角打ちの歴史の糸を紡いできたのだ。
「3代目を継いで、かれこれ43年。家内とはお見合いで一緒になって34年になりますかねえ。缶ビール1本で、もうけっこうというくらい、酒は二人とも弱いんですがね。大勢のお客さんに助けられながら、楽しく頑張ってきました」と、ご主人の花井康明さん(65歳)。
「僕はサンシャインのあたりの会社に勤める角打ち大好き人間です。池袋には何軒かこういう店があって、だいたい制覇しているんだけど、4年前にここを見つけてからは、他所には行かなくなりましたね。理由と聞かれてもはっきり言えないけど、気持ちの上でまったくバリアフリーになれて落ち着けることかなあ。仲間も気に入ってくれて、一緒に週の半分以上ここにいます」(50代、不動産管理)
落ち着ける理由は、別の常連一行が教えてくれた。
「まるでうちの会社の敷地内にあると言ってもいいほど近いんだけど、ソフトクリームとたばこの看板が目立っていて、飲めるなんて全然知らなくてね。よく見ると、店内で角打ちできますと書かれた張り紙がある。ほんとかいって感じで飛び込んだのが2年前。以来、気さくなお父さんとお母さん(花井さん夫妻)に会えるのがうれしくて、同僚と週3あるいは週5ペースで通っています」(30代~50代の4人連れ、IT系)