5月に発生した中東呼吸器症候群(MERS)の影響により、韓国経済は旅行・観光業を中心に大きな影響を受けた。「感染を回避するために渡韓を中止したところ、韓国のホテルがキャンセル料を請求してきた」という場合、これは応じなくてはいけないのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
所用で韓国に行く予定でしたが、MERSのため取り止めました。しかし、現地のホテルにキャンセルの連絡を入れたところ、3日前の取り消しの場合、宿泊料の80%の料金を支払ってほしいとのこと。感染を避けるために中止したのに、それでもキャンセル料を払わなければいけませんか。
【回答】
予約取り消しの条件は、契約によって決まります。わが国のホテルの場合、多くは観光庁が公表しているモデル宿泊約款に準拠した約款を定めて契約内容としています。特に国際観光ホテルの登録をする上では、約款の提出が義務付けられています。不合理な内容でなければ約款によって判断されます。
そして、約款には予約のキャンセル率も定められています。直前キャンセルほど高率になるのは、突然キャンセルされては集客できず、予約客向けの準備が無駄になるのでやむを得ないことです。
ただし、これは予約者の都合によるキャンセルの場合です。例えば、災害で交通機関が途絶して行けなくなった場合、伝染病蔓延で公権力により、交通が遮断された場合(感染症予防法には、こうした制度があります)などは宿泊できなくなりますが、予約者の責任ではありません。この事態を宿泊サービス提供義務の履行不能と解すれば、民法の危険負担の制度から、そもそもホテル側は宿泊代金を請求できません。
ただ、制限されてもホテルの営業が可能だと、予約者の受領遅滞(一種の権利放棄)になり、違約金の支払い義務が発生します。難しい判断ですが、宿泊約款では予約者に責任があるときに、キャンセル料が発生するとしていますから、この点であまり悩む必要はありません。
問題はMERS流行でキャンセルするのが予約者の責に帰すべき事由かです。悩ましいところですが、流行の規模や外務省が渡航危険情報を出していないところから無理なように思います。
以上は、日本のホテルの場合です。本件は、韓国のホテル事業者との国際取引ですから、契約で条件が決まっていないと、日韓どちらの法律が適用されるかの点から考えていく必要があります。まずは、予約キャンセル料に関する契約根拠を確認してください。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年8月7日号