今でこそ「品格と節度」(新聞倫理綱領)を掲げる新聞だが、戦前までは事情が違った。明治、大正、昭和初期の新聞をめくると、「朝日」「読売」などの全国紙も売り物の目玉記事は、男と女のスキャンダル。現代の週刊誌と見紛うほどの色っぽい仰天記事にあふれているのだ。『三面記事から見る戦前のエロ事件』(彩図社刊)の著者・橋本玉泉氏協力の元、当時の新聞を飾った「エロ・グロ」事件を厳選した。
【妻を寝取られた男が「横領罪で告訴したい」と涙の訴え(大正14年8月23日・東京朝日新聞)】
大正末頃の東京朝日新聞にこんな見出しが躍った。
〈他人の女房を借りて返さず〉
一体何があったのか? 記事によると、東京・本所区(現・墨田区)のTさんは友人から「夕方まで妻君を貸してくれないか」ともちかけられた。Tさんはなぜか〈二つ返事で承諾〉したという。
ところが翌朝になっても妻は戻らず、「もうお前のところへは帰りたくない」との三行半を突きつけられる。仰天したTさんが友人宅に駆け込むもすでにもぬけの殻だ。
慌てて方々を探すが手がかりはない。気落ちしたTさんは警察署に出頭し、友人を「横領罪」で告訴したいと泣く泣く訴えたという。その後、Tさんの訴えが受理されたかどうかは定かではない。
なお、戦前の新聞には〈女房を月賦払いで譲渡した〉、〈借金のカタに女房を2年間貸す〉などの記事が多く見られ、当時の妻が置かれた社会的な立場が垣間見える。
※SAPIO2015年8月号