「次の大トラは誰だ!」──いま中国共産党関係者の間では、この話題で持ちきりだという。「トラもハエも叩く」と豪語した習近平・国家主席の反腐敗キャンペーンは、いよいよ「大トラ」と呼ばれる党最高幹部にたどり着いた。
習政権はこの7月20日、令計画・前共産党中央弁公庁主任を「巨額収賄」などの容疑で党籍剥奪・公職追放処分にすることを決定したのだ。近く逮捕される予定だという。昨年12月に元最高指導部メンバー、周永康・元党政治局常務委員を「重要な党規律違反」で党籍剥奪・逮捕したのに続き、「タブー中のタブー」といわれる元最高幹部の追放劇である。
日本ではあまりなじみのない令計画の名だが、中国では胡錦濤・前国家主席の最側近として知らぬ者のない存在だ。
昨年1月に香港で出版され話題となった『北京319政変始末』という本がある。同書によれば、令計画は政権転覆を狙った「クーデター計画」に荷担していたというのだ。
周永康・元党政治局常務委員、薄熙来・元重慶市党書記、徐才厚・前中央軍事委副主席、そして令計画を加えた“新四人組”は、胡錦濤から習近平への政権移行のタイミングに乗じたクーデターのために内通を繰り返していたが、2012年3月19日、解放軍第38集団軍が出動するという不可解な事件を機に、一気に沈静化したという。
それにしても、なぜ習近平はここまでして粛清をエスカレートさせるのか。その背景に「焦り」があると見るのが、『習近平の「反日」作戦』の著者でジャーナリストの相馬勝氏だ。
「毎年夏、江沢民や胡錦濤という両元主席ら長老指導者と現役の党最高幹部が河北省の避暑地、北戴河に集まり、高級幹部人事や重要な政策や政治方針について協議する会議が開かれます。
この北戴河会議は『権力闘争の天王山』とも呼ばれますが、今年は江沢民をはじめ党長老たちから、習近平の独断専行や権力集中に対して強い反発が予想される。それだけに、習近平としては先手を打って、この時期に令計画の処分を公にして機先を制する必要があったのではないか」
習近平への逆風は政治的な要素だけではない。
「このところ株価の暴落騒ぎや経済成長の鈍化など、習近平指導部を取り巻く経済環境は厳しさを増しています。外交的にも南シナ海をめぐって、米国を中心とする中国包囲網が形成されている。
また、習近平は9月3日に実施される軍事パレードに50か国以上の首脳を招待していますが、ロシアや中央アジア諸国以外は様子見の状態で、外交的にも孤立化の様相を呈している。つまり、そうした窮状が、習近平を党内の粛清に駆り立てているともいえるのです」(同前)
※週刊ポスト2015年8月7日号