一説には4000億とも5000億円の経済規模があると試算されているアダルトビデオ産業。性欲は景気に左右されないことから「エロは不況に強い」とも言われているこの業界に異変が起きている。綿密な取材でAV産業の内幕を抉った『AVビジネスの衝撃』(小学館新書)を上梓したノンフィクションライターの中村淳彦氏に話を聞いた。
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中村:そもそもAV業界は知名度のわりに、経済規模は大きくない。レンタルビデオ時代に業界を牛耳っていたビデオ倫理協会が解散して、流通の寡占化が進んだ。現在の市場規模は超大手流通の2社(DMMグループ、ソフト・オン・デマンドグループ)の売上から類推して、せいぜい400億~500億円程度でしょう。
“人間の性欲はなくならない、エロは不況に強い”というのも結果的に都市伝説で、不況の際にはAVのような娯楽は真っ先に切り捨てられる。無限の右肩下がりの状況は継続中で、有能な人材はどんどん業界から離れてしまった。アダルトDVDは本当に売れていない。今の状況は限界点に来ています。
――AV女優たちのギャラ事情はどうなのか。
中村:90年代初頭のバブル末期に、トップ女優の一本の出演料が1000万円などという超高額な時代もあったけど、現在はトップクラスの人気女優でも最高額で300万円くらい。しかし、この金額はメーカーが所属プロダクションに支払う金額であり、女優本人に手渡されるのはその半額、または4割というのが一般的です。
企画女優となると手取り3万円ということも珍しくなく、もうAV女優だけでは生活できないのでAV女優を名乗りながら、アルバイトが本業という女優も多数いる。製作費は下がり続けていて、女優のギャラの下落傾向はまだ続きます。それにどれだけギャラが下がっても、出演する人がいるから止まらない。
――それでも最近のAV女優のクオリティーの高さには驚くばかりです。
中村:ギャラは下がって、内容は過激になっているのにAV女優になりたいという女性は多く、プロダクションに殺到している。10年くらい前から完全に買い手市場になっています。試算をしたのですが、企画女優でも採用率は14%、企画単体で5%、単体クラスとなると300~500人に1人と数値化が不可能なほど。単体になるのは東大に入るより難関です。かわいいのは当たり前、プラスαの付加価値がなければ単体AV女優にはなれない。
――それでは絶頂時のAV産業はどうだったのか。
中村:アダルトビデオが誕生してからの10年間(1982年~1992年)、それからセルビデオが登場してからの7年間(1995年~2002年)あたりは、相当に儲かっていた。一時期、莫大に稼いだ村西とおる監督はお金の使い道に困ってクルーザーを買ったり、住民税の支払いが1億6000万円の年度があったとか。巨乳ブームの先駆けとなった松坂季実子あたりだと、1本撮れば数千万円は儲かったそうです。
また、1990年代に登場したセルビデオはレンタルより消しが薄く猥褻性が高かったので、1本50万円に満たない製作費で作った粗製濫造ビデオでも飛ぶように売れました。儲かるところには胡散臭い人々が集まります。セルビデオの草創期の90年代半ばは、それまでAV業界に関係なかった怪しげな人物が続々と集まって”儲かりすぎてお金の使いようがない”みたいな話は散々聞きました。