業界紙、専門誌のめくるめく世界をあなたに。今回は、板紙・段ボール業界の専門紙を紹介します。
『板紙・段ボール新聞』
創刊:1960年
発行:毎月7、17、27日
部数:6800部
読者層:段ボールメーカーほか関連業者、大手メーカー
定価:半年間、1万4580円
購入方法:発売元・日刊板紙段ボール新聞社に直接注文。
「まいど~、宅配便でーす」。玄関先でこの声を聞いたら、まっ先に考えるのは、その中身。今なら知人から届く夏野菜? それともお取り寄せ品か、ふるさと納税品か?
それらが入っている段ボール箱を気に留める人は、まずいまい。中身を取り出すために、ナイフで裂く者あり、パンチを入れる者あり。あげく、“資源ごみ”という名のやっかい物扱い。
「家電、家具、化粧品、洗剤、アルコール類、カップ麺、清涼飲料水、野菜、肉、魚。あらゆる物は段ボール箱に入って運ばれているんですけどね。業界以外で、段ボールに興味を持つ人なんているんですか?」
副編集長の浮田洋司さん(38才)は、記者の顔をけげんそうに見る。
話を先に進めよう。まず段ボール箱の原料は、95%段ボールで、古紙回収業者→製紙工場→段ボール工場→段ボール箱工場と、4つの業者を通って各企業や消費者へ届く。そして、使ったら資源としてふりだしにもどり、7、8回生き返る。
「表紙と波なみの中紙、裏紙を貼り付けるのはとうもろこしなどの粉。徹底的に環境にやさしいんですよ」と浮田さん。
日本の年間需要は130億平方メートル以上。1人当たりみかん箱にして150個使っている勘定だそう。地味で目立たないが、“日本経済の縁の下の力持ち”でもある。
「その分、景気のよしあしは業界全体に響きます。2008年のリーマン・ショックのときは、消費量が極端に鈍り、その後、徐々に回復しましたが、好調だった2007年にはまだ届かないのが現状です」とも。
長らく、段ボール先進国はアメリカで、生産量はずっと1番だったが、生産量に限れば2003年頃から中国が逆転した。しかしながら、世界中の段ボールシートを作る高速機は、日本の2社とドイツの1社がほぼ独占し、一矢報いている。
量はともかく、「箱の質では世界の最高レベル」と浮田さんは誇らしげだ。高額な中身には、それにふさわしい美しさが要求される。
300回以上続く、同紙の人気連載企画第1位の「企業訪問」は、大企業から、家族経営の段ボール箱の製造会社まで記事にしている。その一例が『村上紙器工業所“ものづくり”から“事づくり”』で、大阪、西成区の従業員数6人の貼箱を作る会社を取り上げた。同社は手加工による特殊な貼箱を得意とし、紙だけでなく、ビニールクロスや布クロスを貼る技術で、抜きんでている。
〈(かつては)手作業も今に増して多く、刷毛で職人が糊付けしていた。…均一に塗ろうとすれば確固とした職人技が求められる。かなめであるからこそ、職人が最も偉い。同社の場合…現代表の祖母であった。〉
高級ワインや、化粧品を梱包する同社の箱は、ため息が出るほどの出来栄えだ。
〈無論、当初より全てが上手くいったわけではない。…数年間は仕事の時間を削ってでも可能な限りデザイナーの作品展に参加させてもらうなど、行動を共にして…〉
その一方で、たえず機能性を高める業界の動向も追う。
「たとえば高級な地酒の箱なら、クッションからビンの頭の押さえまで、広げると一枚の紙になって、それを組み立てるようにできています。いちごはきっちり4パック入る大きさで、パックが底につくといちごが傷むので、パックの角を仕切りにかけて浮かせるような構造なんですよ」
最近のトレンドは輸送箱がそのまま陳列箱として、「パコッと頭部を開けて」、スーパーの売り場に並ぶ形式で、品出しの手間を省いている。
そして昨今の業界の話題は、
「この夏の天候ですね。冷夏はビール会社だけでなく、段ボール業界にとっても打撃なんですよ」(浮田さん)
地味で目立たない段ボール箱にも、かかわる人の喜怒哀楽が詰まっていたのである。
(取材・文/野原広子)
※女性セブン2015年8月13日号