北京市中心部から南西に車で1時間ほどにある盧溝橋。いまから78年前の1937年7月7日夜、この地で演習中だった日本軍の後方から数発の銃声が響いたことが引き金となり、日中戦争に突入した。それから78年後の7月7日、盧溝橋に隣接する中国人民抗日戦争記念館に習近平主席ら7人の中国共産党最高指導部が現地に勢ぞろいし、戦勝70周年を記念して開かれている特別展を視察した。この展示とその思惑について、現地を訪ねたジャーナリストの相馬勝氏が報告する。
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展示会場は主に時系列順に8部構成で、戦争の発端となった盧溝橋事件など東北部の戦闘を描いた第1部から中国全土に拡大した戦争の概略を第2部に、第7部が「偉大なる勝利」、第8部が「歴史の銘記」などとなっている。
この特別展で最も力点が置かれているのは最後の第8部「歴史の銘記」のコーナーだ。これは毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦濤、習近平という歴代の最高指導者が戦後の日中関係改善のために、いかに尽力したかが大きなテーマとなっている。毛沢東は日中国交正常化を成し遂げ、トウ小平は改革・開放路線を推進し日本企業の対中進出を促進したが、5人の最高指導者の中で最も大きく扱われているのが習近平である。
習近平の思惑について、オーストラリア・シドニー大学中国研究センター所長のケリー・ブラウン教授はフランス通信(AFP)に対して、中国が「国民との結束とつながり」を実現するために「屈辱の歴史」を利用していると指摘。「強国としての地位を取り戻し、世界中で尊敬され、高い評価を受けることのできる国家」を目指すという「中国の夢」構想を掲げる習近平にとって、「歴史を利用することは特に重要だ」と分析する。
この言葉通り、中国では今、日本による侵略を描いた映画や舞台が数多く用意されており、少なくとも183回の舞台公演のほか、新作映画10本、テレビドラマ12本、ドキュメンタリー20作品、アニメ番組3シリーズなどを全国ネットで放送。さらに、日本人戦犯の取り調べ調書の中国語翻訳本が100冊以上出版される予定だ。
とはいえ、習近平は特別展を視察したが、昨年のように記念式典には出席せず、その代わりに宣伝・イデオロギー担当の劉雲山・政治局常務委員が演説を行った。
北京の外交筋は「特別展の視察や談話の発表は国内向けだが、式典を欠席したことは日本への配慮といえる。日本側を刺激することを避けた可能性もある。これは安倍首相が8月に発表する戦後70年談話の内容について、中国側の意向を汲み取ってもらいたいとのシグナルとも読み取れよう」と指摘する。