日本人の自虐史観的戦争観を翻した『戦争論』から17年、小林よしのり氏が戦場ストーリー巨編『卑怯者の島』を上梓した。京都国際漫画ミュージアムで開催中の「マンガと戦争展」のイベントとして企画された小林氏と評論家・呉智英氏の特別対談。漫画家・小林よしのりに早くから注目し、「ゴーマニズム宣言」を初期から評価していた呉智英氏だが、意外にも小林氏に会うのは「記憶する限り17~18年ぶり」だという。
呉氏は対談で、小林氏の漫画家としての歩みを振り返りながら、新作『卑怯者の島』について、こう評した。
「戦争の実相ということなんです、おそらくは。小林さんは、自分の『戦争論』その他いろんなもので描いてきたので、何となく戦争全面肯定論者みたいに思われているけど、そうではないんだというお気持ちも前からあったはずなので、それがこの作品にはよく出ています。人間は、仮に大義のある戦争に参加するときでさえ、実は卑怯な存在であると。考えてみれば、当たり前っていえば当たり前なんですけどね。そんなに単純な命なんかないんだと。
その上で、人間はどう悩み、どう葛藤しながら、その戦争の中を乗り切ったかということを描いたので、これまた戦争を多面的に考える上で大変重要な作品になっています」
さらに呉氏の分析は続いた。
「戦闘の勇壮美、あるいは、戦闘の爽快感だけで描いたマンガもあります。いい悪いは、別途、考えなければいけない。それから、さらにミリタリーオタクといって、武器の精密さだけで戦争を描くということもある。人間というものを、ある社会現象というものを、さまざまな視点で描く。
それの功罪、成否というのは別途にあっていいんだけれども、さまざまに描かれた。そして、さまざまに描かれるだけのものが戦争の中にあったということをわからないと、戦争とマンガということが理解できなくなってきます。戦争も理解できないし、人間も理解できない、歴史も理解できないということです」
※SAPIO2015年9月号