香港では高齢者人口が増加の一途をたどっており、総人口に占める65歳以上の高齢者の比率は16%以上で、約110万人に達しており、2050年には全人口の3分の1を占めるとみられる。このため、香港特別行政区政府は政府予算に占める高齢者のための福祉予算が大きな負担になることを見越して、高齢者を隣接する中国広東省の福祉施設への移住を推進する政策を強力に促進することにしている。
しかし、昨今の香港では大陸人観光客の受け入れ拒否運動が活発化していることもあり、大陸側では「香港では『中国人は香港に来るな』と言っているのだから、『香港老人も大陸に来るな』と言いたい」などとの反発する声が目立っている。
香港政府はすでに2013年10月、高齢者の広東省移住を目的とした「広東計画」を発表しており、今年5月末までの間に1万6904人が広東省の養護施設に移転している。
これに加えて、計画発表以前に広東省に移住した香港人高齢者もおり、総数は計10万人とみられる。広東省政府も今後、3万人程度の香港人高齢者の受け入れを表明している。
広東計画は、具体的には香港政府がこれらの高齢者に対して「生果金」と呼ばれる手当てを支給するというもので、支給金は1人につき月々1135香港ドル(約1万5000円)で、「果物を買うお小遣い」という意味があり、香港の発展に貢献した高齢者の労をねぎらう目的がある。
香港から広東省の移住の利点は中国側の物価の安さで、生活費は香港のほぼ4分の3で済む。また、最近は中国でも医療施設が充実している点も大きな要素となっている。
しかし、香港内では「長年の貢献をねぎらうというのならば、香港内でしっかりと生活をみてやるべきだ。政府の予算を減らすのが目的では、高齢者の人権を軽視するだけ」などとの批判の声も根強い。この背景には、最近は中国の人民元に対して香港ドルの価値の下がっていることや、広東省の物価も高くなっていることもある。
さらに、最近の香港での対大陸感情の悪化から、中国内で広東計画への風当たりが強くなっている。ネット上では「香港では大陸人の爆買いや中国政府の対香港政策への批判が強いが、香港の予算を節約するために大陸を利用するのは筋違いだ。香港人の方がよほどずるがしこい」などとの批判の声が出ている。