アメリカとキューバの国交が回復した。日本には無関係に思えるかもしれないが、キューバには世界的に名高い輸出品がある。「医療」だ。
人口10万人当たりの医者の数は日本の3倍で、乳幼児死亡率は1000人当たり6.2人(アメリカ6.7人、中国12.7人、日本2.9人)。平均寿命の78歳も、ラテンアメリカ諸国で突出している。
キューバの医療レベルが高いといっても、がん治療などの高度医療の分野では、やはり日本のほうが上だ。しかし、臓器移植などの技術は高いとされている。キューバの病院を視察した経験のある静岡県立総合病院の安田清医師はいう。
「私は首都ハバナにあるアルメイヘラス病院を視察しましたが、この病院ではメディカルツーリズム(医療のための観光)を実施していました。臓器移植は、5年間で心臓移植70例、心肺移植3例を行ない、生存率は88%とのこと。肝移植も行なっていました。
このメディカルツーリズムでは、カナダ、スペイン、イタリアから患者を受け入れ、年に5000万ドルの外貨を獲得しているそうです。家族で来て、本人は手術を受け、他の家族はキューバで観光、バカンスを過ごすこともあると聞いています。それでも米国で手術するより安いそうです」
外国人に対する医療はさすがに無料ではなく、受診可能な医療施設も限られているが、医療費は安く抑えられている。
安田医師と同様に、ハバナの病院を視察したNPO法人医療制度研究会副理事の本田宏医師も、キューバへのメディカルツーリズムのメリットをこう語る。
「視察に行ったハバナ病院で角膜移植についてレクチャーを受けたが、1か月待てば角膜移植ができるそうです。日本ではドナーが少なく、それより時間がかかるので、角膜移植を急ぐ人は、キューバで移植手術を受けるという選択肢はありうると思います。
腎移植や肺移植なども行なわれています。他国での移植を推奨するわけではないが、日本で臓器移植はハードルが高い。アメリカとの国交回復で、免疫抑制剤などの医薬品の調達が容易になれば、キューバでの移植手術を今まで以上に安心して受けられるようになる可能性はある」
臓器移植は患者の母国で実施するのが原則であることはいうまでもないが、一方で、日本での臓器移植の実施件数は、欧米諸国に比べ極端に少ないのも現実だ。
キューバでは誰もが自分のIDカードを持ち、脳死状態になった場合の臓器移植をほとんどの人が承諾しているという。見習うべき点はむしろここなのかもしれない。
※週刊ポスト2015年8月14日号