動画配信サイト「ニコニコ生放送」で朴槿恵大統領の妹、朴槿令(クンリョン)氏が行なった「親日」発言が波紋を広げている。槿令氏は、「首相が代わるたびに謝罪を要求する。それは他国から見ればご近所同士の喧嘩と同じで恥かしいこと」と韓国の対応を非難し、これらが韓国民の反発を招いたのだ。
韓国経済が低迷するなかで、朴政権はもはや「反日」だけでは点数稼ぎができなくなっており、むしろ反日一辺倒が韓国の外交孤立を招いていると批判されるようになった。朴槿恵大統領も最近になって「未来志向の日韓関係の構築」を目指し、「用日(日本を利用する)」路線に舵を切り始めている。
そのため、韓国内外の一部メディアでは槿令氏の親日発言について、「妹が一肌脱ぐことで親日だった父の衣鉢を継ぎ、反日で拳を振り上げすぎて未だに日韓首脳会談も実現できない姉をサポートする意図があったのではないか」という指摘もある。
槿令氏もインタビューで、「姉は多忙で家族を顧みない。でも、私がどこへ行って何をしているかは把握していて干渉しないといっています。そんな姉の代わりに発言していると思ってほしい」とほほ笑んだ。
仮にそうだったとして、効果はあるのだろうか。韓国政治に詳しい札幌学院大学教授の清水敏行氏が指摘する。
「従軍慰安婦問題など歴史問題の解決と切り離したうえで、経済面では日本に歩み寄って自国を立て直していきたいのが朴槿恵大統領の考え。そこにいきなり極端な親日路線を身内が持ち出すことは朴槿恵氏にとっては“ノイズ”以外の何物でもないでしょう。せっかく反日一辺倒から脱却を図ろうとしているのに、この親日発言が妹から出たために日本に歩み寄りにくくなる可能性がある。日本にとっても益はないと思います」
実際、在韓日本大使館前で保守系団体が抗議集会を開くなど、韓国世論の「反日」にガソリンを注ぐ結果となっている。
日本での終戦記念日に当たる8月15日は韓国でも「光復節」として記念式典が催される。その準備に追われ、日韓関係に対しても非常に敏感になっている矢先の親日発言となった。
「大統領の妹とはいえ、槿令氏は公人ではない。個人的な発言だと大統領府は静観しています。が、支持率が低迷しているだけに世論の動向には注意を払っているようです」(在韓国ジャーナリスト・藤原修平氏)
我々にとっては我が意を得たりの「大正論」は、姉妹の確執に巻き込まれただけなのか。戦後70年、日韓国交正常化50年の節目はまだ波乱含みだ。
※週刊ポスト2015年8月21・28日号