作家・森村誠一さん(82才)の原点は、70年前の8月14日深夜の熊谷空襲にある。生まれ育った埼玉県熊谷市の街が一夜にして焼け野原、近くの川に浮かんでいた見知った顔の死体の山…当時、小学6年生だった彼が目にした光景はあまりにも衝撃的だった。一日たりとも忘れていないあの日の出来事――
戦後、森村さんはホテルマンを経て、念願の作家となり、ジャンルを問わず健筆を振るってきた。累計発行部数は1億4000万部を超える。
「読書、そして表現の自由がないなかで育ったので、これもあれも書きたいと、欲張りなのです」(森村さん、以下「」内同)
1981年には、ノンフィクション『悪魔の飽食』を上梓した。日本陸軍第七三一部隊の凶悪な実態を赤裸々に描いた。
同部隊は、満州(現・中国東北部)で細菌戦を目的にした捕虜への人体実験を行った。同書によると、凍傷実験ではこんなことが行われていた。
《酷寒の戸外へ連れ出し、冷水の入った桶に両手を入れさせ、それから手を出させて、濡れ手のまま、長時間寒気に立たせました》
《小さな棒をもって凍傷にかかった手を、小板をたたくような音が出るまでたたき続けました》(いずれも『新版 悪魔の飽食』(角川文庫)より)
「戦争は、人間を狂わせます。一般の人たちが悪魔の所業をためらいなくできてしまう。この七三一部隊の隊員は、私たちと同じ人間です。もともと人体実験をしたかった人はいないはず。戦争が人を洗脳し、非人間化していくんです」
森村さんは、子供の頃の実体験からそのことを学び、取材・執筆を通じて訴え続けている。
「戦争によって得られるものがあるとすれば、それは戦争文化です。勝っても負けても絶対に行うべきではないということを学べます。安倍晋三総理は、多大な犠牲を払って得た戦争文化から何も学んでいない。
そして、今は戦争を美化する若い世代が多い。その人たちに言いたいのは、『戦争が始まったら、あなたがいちばん最初に死ぬ』ということ。戦場行きを拒否すれば、非国民として人生を破壊される。今の日本は70年前と同じにおいがしています」
※女性セブン2015年8月20・27日号