プロ野球も後半戦を迎え、ますます盛り上がりを見せているが、球界の重鎮に最近のペナントレースはどう映っているか。通算567本塁打の記録を持つ門田博光氏(67)が大阪桐蔭出身選手によく見られる「フルスイング」について語る。門田氏もフルスイングを心がけ、歴代3位の本塁打数を誇るが、同氏の目にフルスイングをする若手選手はどう映るのか。
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最近は柳田悠岐(ソフトバンク)や中田翔(日本ハム)、森友哉(西武)など、フルスイングをする選手が出てきて話題ですね。ただ彼らの大半はおそらくこの後、フルスイングゆえの壁にぶつかって悩むと思います。唯一その危険性がないといえるのは、過去に48本を打って要領を得ている中村剛也(西武)だけかな。
今の選手は体格に恵まれていて体力もある。開幕して4月、5月は体が元気だから、大きなスイングで15本や20本のホームランも打てるでしょう。ただそこから先はなかなか打てない。実際、中田は春先にはポンポン打ったが、今は本数が伸び悩んでいるでしょう。
同じスイングをしているのに飛んでいかないという感覚になるんですね。自分では仕留めているつもりなのに、春先に比べて角度がないとか、フェンスの前で失速しているように感じる。これは結局こすり打ちになっているからなんです。元気な時はバットの先がいい角度で当たっているが、夏場で疲れてくると微妙に角度が変わっているわけです。
それを見た野球を何も知らない評論家やコーチが、「お前ならもっと軽く振ってもボールは飛ぶよ。脱力しろよ」などと吹き込むんですよ。選手も一流の打者がよく「軽く振ったほうが飛ぶ」といっていることを知っているし、フルスイングで結果が出ないから、その言葉に誘惑されてしまう。でもここで我慢してフルスイングを貫けるかどうかが分水嶺なんです。
吹き込んでくる奴は「軽く振る」という意味を勘違いしているんです。たとえば王さんや野村さんにしても、若い時分にはとにかく振っていた。振って振って振り抜いていく中で初めて、ポンと当たれば飛んでいくという“極意”を掴むわけです。それが分かるまで、とにかくフルスイングを続けなければダメ。それを途中で挫折してしまった選手がいかに多いか。
自分の考えと周囲の意見の板挟みになったときに、「いや、自分は振るだけです」と頑固に貫き通すことができてこそ、壁を突破できる。中村はそれができた1人というわけです。
●かどた・ひろみつ/1948年、山口県生まれ。南海、ダイエー、オリックスで活躍。40歳で二冠王(打点、本塁打)とMVPに輝いたほか、41歳で33本塁打、42歳で31本塁打を放ち「不惑の大砲」と呼ばれた。通算567本塁打、1678打点はともに歴代3位。
※週刊ポスト2015年8月21・28日号