海外で人気の日本食はなんだろうか。お国柄も見えてくる。ジェトロの調査をもとに、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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「隣の芝生は青く見える」ということわざを持ち出すまでもなく、他人がうまそうに食べている品は魅力的に写りがちだ。そんな心理は、明治の文明開化や第二次大戦後の食の欧米化とも無関係ではなかったろう。明治の戯作者、仮名垣魯文も『安愚楽鍋』で「士農工商老若男女。賢愚貧富おしなべて。牛鍋食はぬは開化不進奴(ひらけぬやつ)」と説いた。
それから百数十年、「日本の食」は海外の食を取り込みながら、さまざまな形に進化した。「和食」のユネスコ無形文化遺産登録を挙げるまでもなく、世界に広く知られるようになった。2013年、2014年と2年続けてジェトロ(日本貿易振興機構)が海外の消費者を対象に「日本の食品」調査結果を発表した。いずれも好感度の高い結果となっている。
2013年の調査対象地域は中国、香港、台湾、韓国、米国、フランス、イタリア。これまでも日本食になじみがあった地域だ。一方、2014年の調査はモスクワ(ロシア)、ホーチミン(ベトナム)、ジャカルタ(インドネシア)、バンコク(タイ)、サンパウロ(ブラジル)、ドバイ。前年の調査対象地域に続くと目される地域といったところだろう。いずれも首都や大都市での調査となっている。
まず2013年の調査から見ていくと、回答者全体の83.8%が「日本料理を好き」と回答している。「好きな外国の料理」でもアジア地域とフランス、イタリアで「日本料理」が1位を獲得。アメリカでは3位だが、1位のイタリア料理(15.5%)、2位の中国料理(15.0%)と僅差の14.7%。4位にメキシコ料理(13.5%)が入っているのは、回答者の半数がメキシコ料理になじみのあるロサンゼルス市内という理由もありそうだ。
2014年の調査対象エリアは、前年の調査対象地域に比べると、浸透度は高くなさそうな地域だが、ベトナムのホーチミン、インドネシアのジャカルタ、タイのバンコクとアジア地域では「好きな外国料理」の1位。ロシアのモスクワでも1位を獲得しており、他地域も含めた1~3位の合算でも66.3%とイタリア料理(46.4%)、中国料理(42.5%)を押さえている。全体的に好感を持って受け入れられていることが伺える。
もっとも、こちらの調査ではブラジル・サンパウロこそ「イタリア料理」(41.4%)に続いて2位(30.8%)だが、ドバイでは「インド料理」(28.2%)、「中国料理」(15.2%)、「イタリア料理」(12.8%)に遅れをとっており、「タイ料理」と並んでの9.4%にとどまった。「世界中どのエリアに行っても人気」とまでは言えないのが実情のようだ。