戦後70年間でさまざまな新語が生まれては死語となって消えていった。現代人も使う「性用語」の知られざる語源を辿る。
「日本人はワイセツな言葉を直に口にするのをはばかって、アルファベットやカタカナなど別な言葉におきかえる傾向がある」と解説するのは、『性の用語集』『性的なことば』(ともに講談社現代新書)などの著書がある、国際日本文化研究センター教授の井上章一氏だ。
現在では何気なく使っている性的な言葉の語源や意味の変遷を辿った両著からは、戦後の日本人の性に関する意識の変化が読み取れる。
【エッチ】
もともとは戦前の女子学生用語で、ハズバンドの頭文字から彼氏の話題の時に「エッチ」を使っていた。それが戦後、アブノーマルな「変態性欲」を指す隠語として使われだし、やがてノーマルなスケベを意味するように変化していく。
「最近ではお笑い芸人がテレビで『あの子とエッチする?』と使うようになったりしたことで、セックスを意味するようにもなりました」(井上氏)
【巨乳】
この言葉が広く知られようになったのは1980年代後半。井上氏によれば、「それまで『○乳』というと、『牛乳』や『豆乳』などの液体ミルクを指し、乳房の意味はなかった。それがデカパイAV女優たちの出現によって「巨乳」という言葉が認知され、乳房を形容する意味を持つようになった」という。以降、世の男性はオッパイ星人化し、「美乳」「爆乳」などの派生語が次々と登場した。
【ヘア】
ヘアヌードなどに代表されるように、女性の「陰毛」を指す。
「1970年代半ば、『陰毛』が写るヌードグラビアなどはわいせつとして当局に摘発されていました。当時、『おけけ』という言い方をしている人もいましたが、そうした問題をメディアが取り上げる際、『陰毛』と直接表記することが躊躇われ、『ヘア摘発』『ヘア解禁』など、『ヘア』という言葉に変えて抵抗感を和らげたのです」(井上氏)
※週刊ポスト2015年8月21・28日号