プロ野球で巨人が9年連続日本一という黄金時代を築いたのは、川上哲治監督の強力なリーダーシップによるところが大きいだろう。『巨人V9 50年目の真実』(鵜飼克郎・著、小学館)にも、川上氏の勝負にこだわる様々なエピソードが語られている。当時の打撃コーチの荒川博氏、攻撃力を支えた王貞治氏と黒江透修氏が、球場の外でも勝ちにこだわった川上氏との思い出を語り合った。
黒江:野球以外でも勝ちにこだわる人でしたもんね。例えばゴルフ。一緒にラウンドすると、必ず毎ホールドラコン・ニアピンをするんですが、僕がドライバーでラフに外すと、川上さんはアイアンでフェアウェーをキープしにきていた。
王:徹底してるね(笑い)。
黒江:でも終盤になって、川上さんが50cmのパットを外して僕が勝った。すると川上さんは一言も喋らなくなって、その後姿を消したんです。探しに行ったら、パターの練習をしていた。この人の負けず嫌いはすごいと思いましたね。
荒川:負ける相手だとは思っていなかったから、悔しかったんだろうね(笑い)。
黒江:そうそう。麻雀の卓を囲んでいるところへやってきて、「ツイてないやつは誰だ」と聞いて、負けている人だけを連れていくような人でしたね。
一同:アハハハ。
王:川上さんには勝つことに対する執念を教えていただき、荒川さんにはそのためにはいかに練習が必要かということを学ばせてもらった。今は、とことんまで教える人は見当たらない。図抜けた指導者がいない寂しさは感じますね。
※週刊ポスト2015年8月21・28日号