ライフ

第22回小学館ノンフィクション大賞・森健氏 テーマに小倉昌男氏を選んだ理由

小学館ノンフィクション大賞を受賞した森健氏

小学館ノンフィクション大賞を受賞した森健氏

 史上初めて、選考委員全員が1作品を大賞に選出──。7月末の炎暑のさなかに行なわれた第22回小学館ノンフィクション大賞の最終選考会は、他の追随を許さない取材力と文章力を兼ね備えた評伝に、高い評価が集まった。今秋以降に単行本化される予定の大賞受賞作『小倉昌男 祈りと経営』について、著者のジャーナリスト・森健氏(47)が解説する。タイトルにある「小倉昌男」とは、ヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)元社長のことである。

 * * *
 人物評伝の取材は、ある程度敬意をもてるような人でないと難しい。それだけの人物でないと、関心を維持できないからだ。

 その意味で「宅急便」の故小倉昌男氏は尊敬できる申し分ない人物だった。ただ、小倉氏の書籍は多く、本になるような企画かどうかは当初確信はなかった。

 私が抱いていた疑問は「なぜ小倉氏は障害者福祉に全私財を投じたのか」。何かあるだろうと思ったが、手がかりがあるわけではなかった。取材を始めてみると、私たちが知っていた小倉昌男は宅急便の創設者という一事実に過ぎないことがわかった。

 事業の成功の陰で、彼はナイーブで複雑な問題に向き合っていた。取材は芋づる式に進んだが、謎はそのたびごとに膨らみ、次第にその中身は家庭や内面的な話にも及んだ。戸惑う局面もあり、最終的にはセンシティブな話にも触れざるをえなかった。いずれも小倉氏は生前、公にしていないことばかりだった。

 最後に米国の地ですべての謎が解けたとき、私は小倉氏の抱えていたものの重さに思わず空を仰ぎ見た。と同時に、現代の多くの家族で共通しうる問題に彼が取り組んでいたことは、だからこそ、広く読んでもらう意義があると確信した。

 今回本格的な評伝は筆者にとって初の取り組みだった。そこで大きな賞をいただくことになったのは、そんな小倉氏の思いが選考委員の方々に伝わったからだろうと思う。だとすれば、書籍化されたときには、きっと多くの人に共感していただけるのではないか。そんな想像を巡らせている。

【プロフィール】森健(もり・けん):1968年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。『「つなみ」の子どもたち』で被災地の子供たちとともに第43回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『就活って何だ』『グーグル・アマゾン化する社会』ほか著書多数。

※週刊ポスト2015年9月4日号

トピックス

公選法違反で逮捕された田淵容疑者(左)。右は女性スタッフ
「猫耳のカチューシャはマストで」「ガンガンバズらせようよ」選挙法違反で逮捕の医師らが女性スタッフの前でノリノリで行なっていた“奇行”の数々 「クリニックの前に警察がいる」と慌てふためいて…【半ケツビラ配り】
NEWSポストセブン
「ホワイトハウス表敬訪問」問題で悩まされる大谷翔平(写真/AFLO)
大谷翔平を悩ます、優勝チームの「ホワイトハウス表敬訪問」問題 トランプ氏と対面となれば辞退する同僚が続出か 外交問題に発展する最悪シナリオも
女性セブン
日本一奪還に必要な補強?それともかつての“欲しい欲しい病”の再発?(時事通信フォト)
《FA大型補強に向け札束攻勢》阿部・巨人の“FA欲しい欲しい病”再発を懸念するOBたち「若い芽を摘む」「ビジョンが見えない」
週刊ポスト
2025年にはデビュー40周年を控える磯野貴理子
《1円玉の小銭持ち歩く磯野貴理子》24歳年下元夫と暮らした「愛の巣」に今もこだわる理由、還暦直前に超高級マンションのローンを完済「いまは仕事もマイペースで幸せです」
NEWSポストセブン
ボランティア女性の服装について話した田淵氏(左、右は女性のXより引用)
《“半ケツビラ配り”で話題》「いればいるほど得だからね~」選挙運動員に時給1500円約束 公職選挙法で逮捕された医師らが若い女性スタッフに行なっていた“呆れた指導”
NEWSポストセブン
傷害致死容疑などで逮捕された川村葉音容疑者(20)、八木原亜麻容疑者(20)、(インスタグラムより)
【北海道大学生殺害】交際相手の女子大生を知る人物は「周りの人がいなかったらここまでなってない…」“みんなから尊敬されていた”被害者を悼む声
NEWSポストセブン
医療機関から出てくるNumber_iの平野紫耀と神宮寺勇太
《走り続けた再デビューの1年》Number_i、仕事の間隙を縫って3人揃って医療機関へメンテナンス 徹底した体調管理のもと大忙しの年末へ
女性セブン
チャンネル登録者数が200万人の人気YouTuber【素潜り漁師】マサル
《チャンネル登録者数200万人》YouTuber素潜り漁師マサル、暴行事件受けて知人女性とトラブル「実名と写真を公開」「反社とのつながりを喧伝」
NEWSポストセブン
白鵬(右)の引退試合にも登場した甥のムンフイデレ(時事通信フォト)
元横綱・白鵬の宮城野親方 弟子のいじめ問題での部屋閉鎖が長引き“期待の甥っ子”ら新弟子候補たちは入門できず宙ぶらりん状態
週刊ポスト
大谷(時事通信フォト)のシーズンを支え続けた真美子夫人(AFLO)
《真美子さんのサポートも》大谷翔平の新通訳候補に急浮上した“新たな日本人女性”の存在「子育て経験」「犬」「バスケ」の共通点
NEWSポストセブン
自身のInstagramで離婚を発表した菊川怜
《離婚で好感度ダウンは過去のこと》資産400億円実業家と離婚の菊川怜もバラエティーで脚光浴びるのは確実か ママタレが離婚後も活躍する条件は「経済力と学歴」 
NEWSポストセブン
被告人質問を受けた須藤被告
《タワマンに引越し、ハーレーダビッドソンを購入》須藤早貴被告が“7000万円の役員報酬”で送った浪費生活【紀州のドン・ファン公判】
NEWSポストセブン