スポーツ

「いつも辛い」甲子園優勝投手 最後に見せた渾身のジョーク

小笠原の一打を刻む

 夏の甲子園は20日、東海大相模の優勝で幕を閉じた。観客動員数は86万2000人で昨年より9000人増える盛り上がりを見せた。現地で取材を続けていたフリーライター・神田憲行氏が「忘れられない光景」をふり返る。

 * * *
 今年の甲子園で初っぱなからファンの胸を熱くさせてくれたのが、王貞治さんの始球式だった。王さんはその記録だけでなく、人柄でも野球記者たちから尊敬を集めていて、記者席でも食い入るように息を潜めて見つめていた記者たちの姿があちこちにあって(私もそのひとりだ)、印象的だった。

 1回戦で最大の番狂わせ、といったら失礼だが、下馬評を覆す結果となったのが、智弁和歌山を破った津商業だろう。智弁和歌山の7失策という自滅の部分もあるが、満塁でランナーが一斉に走り出すヒットエンドランは初めて見た。奔放な野球の魅力たっぷりだった。

 メディアの注目は早稲田実業の清宮幸太郎選手に集中していたが、球場の観客の拍手は、むしろ関東一のオコエ瑠偉選手の方が大きかったのではないかと思う。初戦の初打席、一塁強襲内野安打を二塁打、さらに1イニングで三塁打を2本も放って、前評判通りの走力を証明した。塁間を大股で、低空で滑降するような走りだった。

 私はオコエ選手について勝手に「チーター」みたいな選手を想像していたのだが、実際に取材で会ってみると、隆々たる筋肉で、これは「虎」だと感じた。あ、だからといってタイガース入りを勧めているわけではありません。

 大会の旋風となったのが、早稲田実業だろう。今だからいうが、記者仲間の間では「とても西東京大会を勝ち抜けないだろう」という意見が支配的だった。それが甲子園でも戦うごとに強くなっていった。西東京大会では14個もあった失策が準々決勝ではついに無失策になり、とくにショート金子銀佑選手の守備は華麗で、打球が飛ぶのが楽しみだった。典型的な「甲子園で強くなった」チームだろう。

 ある試合後の取材で、和泉実監督が「ハラハラドキドキ。見ているとこのチームは面白いよねえ」と眼を細めていたのも印象的だった。

 毎試合後の取材で同じことを言い続けたのが、東海大相模の門馬敬治監督だ。それは「想定内」。ちょっと古くさい流行語だが、ようは試合中になにが起きても動じない心構えをしていた、ということなのだろう。サヨナラ勝ちした準々決勝の花咲徳栄戦のあとでさえ、「想定内でしたっ」と言い切った。それが決勝戦、小笠原慎之介投手のホームランに初めて「想定外」と発言した。

 門馬監督は神奈川大会の決勝で優秀したあと、恒例となっているグラウンドでの胴上げをせずに引き上げた。恐らく勇退が決まった対戦相手の横浜・渡辺元智監督に譲ったと思われる。夏の甲子園で優勝したときの胴上げが、今夏初めて門馬監督が味わう感激の瞬間だった。こういう「粋」が見られるのも、高校野球の醍醐味である。

 それにしても、東海大相模のエース小笠原投手には、試合前の取材で驚かされた。

「自分は野球を楽しんでやったことがないので、この試合も楽しんでやれないと思います」

 と言い出したのである。「楽しむ」とはどの選手もいう当たり前の台詞だ。「楽しめない」と言い出した選手は小笠原投手以外に記憶がない。

「日本一を目指して辛い思いをしてきたので、楽しい試合は1度もない。いつも苦しい試合でした」

 笑顔も滅多に見せず、ときに朗らかな表情を見せるチームメイトの吉田凌投手と好対照だった。

関連キーワード

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
19年ぶりに春のセンバツを優勝した横浜高校
【スーパー中学生たちの「スカウト合戦」最前線】今春センバツを制した横浜と出場を逃した大阪桐蔭の差はどこにあったのか
週刊ポスト
「複数の刺し傷があった」被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと、手柄さんが見つかった自宅マンション
「ダンスをやっていて活発な人気者」「男の子にも好かれていたんじゃないかな」手柄玲奈さん(15)刺殺で同級生が涙の証言【さいたま市・女子高生刺殺】
NEWSポストセブン
NHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」で初の朝ドラ出演を果たしたソニン(時事通信フォト)
《朝ドラ初出演のソニン(42)》「毎日涙と鼻血が…」裸エプロンCDジャケットと陵辱される女子高生役を経て再ブレイクを果たした“並々ならぬプロ意識”と“ハチキン根性”
NEWSポストセブン
山口組も大谷のプレーに関心を寄せているようだ(司組長の写真は時事通信)
〈山口組が大谷翔平を「日本人の誇り」と称賛〉機関紙で見せた司忍組長の「銀色着物姿」 83歳のお祝いに届いた大量の胡蝶蘭
NEWSポストセブン
20年ぶりの万博で”桜”のリンクコーデを披露された天皇皇后両陛下(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA) 
皇后雅子さまが大阪・関西万博の開幕日にご登場 20年ぶりの万博で見せられた晴れやかな笑顔と”桜”のリンクコーデ
NEWSポストセブン
朝ドラ『あんぱん』に出演中の竹野内豊
【朝ドラ『あんぱん』でも好演】時代に合わせてアップデートする竹野内豊、癒しと信頼を感じさせ、好感度も信頼度もバツグン
女性セブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
《実兄が夜空の下で独白》騒動後に中居正広氏が送った“2言だけのメール文面”と、性暴力が認定された弟への“揺るぎない信頼”「趣味が合うんだよね、ヤンキーに憧れた世代だから」
NEWSポストセブン
高校時代の広末涼子。歌手デビューした年に紅白出場(1997年撮影)
《事故直前にヒロスエでーす》広末涼子さんに見られた“奇行”にフィフィが感じる「当時の“芸能界”という異常な環境」「世間から要請されたプレッシャー」
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下は秋篠宮ご夫妻とともに会場内を視察された(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA) 
《藤原紀香が出迎え》皇后雅子さま、大阪・関西万博をご視察 “アクティブ”イメージのブルーグレーのパンツススーツ姿 
NEWSポストセブン
2024年末に第一子妊娠を発表した真美子さんと大谷
《大谷翔平の遠征中に…》目撃された真美子さん「ゆったり服」「愛犬とポルシェでお出かけ」近況 有力視される産院の「超豪華サービス」
NEWSポストセブン