世界に700万人の会員・支持者がいる世界最大規模の人権団体がこれまでの方針を180度転換し、「売買春の合法化に賛成」を打ち出したことが物議を醸している。
アムネスティ・インターナショナルは8月11日に開かれた総会で、「合意の下での性労働に関わる行為」について、全面的に合法化すべきだとする決議を賛成多数で採択した。
女性の人権を守るという主張の下、売買春に反対してきたアムネスティの“転向”に、他の人権団体は一斉に非難を浴びせた。
アメリカのNGOは、「搾取される者を守るために搾取する側を合法化するのはおかしい」と批判。メリル・ストリープやケイト・ウィンスレットらハリウッドの有名女優もそれに同調した。
アムネスティが合法化賛成に転じた背景には、売春を禁止しても地下経済に潜るイタチごっこが繰り返され、結果的に売春婦の人権が守られない状態が続いてきた事情があるという。
売春婦がガラス越しに客を誘う「飾り窓」で有名なオランダは2000年に売春業を合法化した。売春婦は税金を納め、医療保険にも入る。
「それこそが売春婦が一番望んでいること」だと、欧州の社会問題に詳しいジャーナリストの宮下洋一氏は指摘する。
「スペインの売春婦協会の会長は『私たちだって一般の労働者と同じ権利と尊厳を持って仕事をしたい』と語っていました。スペインは売買春がグレーゾーンの国ですが、アムネスティの決議後に行なわれた地元紙による世論調査では『合法化すべき』は89%にのぼりました」
賛成派も反対派も女性の人権を守るという目的は一緒ながら、アムネスティの路線変更は世界の“売春論議”に一石を投じた。
※週刊ポスト2015年9月4日号